ゴブリンの洞窟
最凶のパーティを結成してしまった俺らは兎にも角にもゴブリンの洞窟へとやってきた。
道中何度言い争いが勃発したかは言うまでない。
やれ、どっちがパーティリーダーだの
やれ、どっちの魔法が優れているだのと。
よくもまぁつらつらと互いの文句をぶつけ合えるものだと俺はもう感心してしまった。
洞窟の前に着く頃にはもう俺はクタクタだった。精神的に。
やっとのことで洞窟へ入る。
洞窟はジメジメしていて、天井の鍾乳石から水の滴る音が疎らに聞こえた。
「なかなか雰囲気でてるな」
俺はRPGの世界観をリアルに体験できて少しばかり興奮していた。
「なによ、ケンタ怖いの?子供ね!」
とミルアが強気で罵ってきた...が、
ーピトッ
「ヒャッ!?」
ミルアのうなじに水滴が落ちた
洞窟に悲鳴が響いた。
「まったく、相当なビビリ様ね」
とこれ見よがしと嘲笑うフレア。
それに対して赤面しているミルア。
やれやれと思っていると
ーピトッ
「フェッ!?」
とフレアの気の抜けた悲鳴が響いた。
フレアは恥ずかしそうに二人の顔色を伺った。
案の定、ミルアはざまぁと言わんばかりのニヤケ顏だった。
フレアは屈辱的で顔を熟れたトマトの様にしていた。
「ったく、お前らを見てると小学生の喧嘩を見ている大人の気持ちになるよ」
そう俺が呆れ顏で言うと二人は頬を風船の様に膨らませて睨んできた。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
そんな気の抜けた俺らだが、ふと有ることに気がついた。
俺らより出発した奴らとまだ会っていない。
俺らは順番的には真ん中あたりだ。
もう奥まで行って折り返しに来る奴らとすれ違ってもおかしくない。
そんなことを考えミルア達に目を向ける。
どうやら彼女たちも気付いているようだった。
「気付いてると思うけど、先に行った人達がまだ一人も帰って来てないわ。嫌な予感がする。一旦戻って先生達に知らせましょう。」
ミルアが提案し俺らはそれに同意した。
入り口に戻ろうと振り返ると目の前の天井が崩れ落ち、帰路が塞がれてしまった。
「うわぁ、ベタ中のベタがこんなタイミングでくるなんて...」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよ!どうするの、これじゃ戻れないじゃないの!」
とフレアがキーキー騒ぐ。
「とりあえず、奥に進んで他の生徒達と合流しましょ。」
「妥当だな」
俺らは再び奥へと歩き始めた。
だいぶ歩くと松明の灯りが見えた。
「おっ、あれが最奥かな?」
俺らは灯りを目視すると急ぎ足で近寄った。
ーガシャーン!
刹那。上から鉄格子が降って来て、ミルアとフレアを捕まえた。
俺は事態を呑み込めずに、ぽかーんとしていた。
「ヘッヘッ、ニンゲンツカマエタ」
上から声がしたかと思うと声の主が降りてきた。
肌は深緑色、身長は低く人間の半分くらいで、手には武器と思われる棍棒をもっていた。
そう、この洞窟に生息しているゴブリンだ。
しかも一匹ではない。
大凡、二十といったところか。
かなりの数のゴブリンがこちらを見てニヤケていた。
「ケケッ、ニンゲンイイモノモッテル。ゼンブヨコセ」
一匹のゴブリンが近づいてきた。
俺達、絶賛大ピンチ!
「なにやってるの!あんた剣もってるでしょ、戦いなさいよ!」
ミルアが背後で鉄格子を揺すりながらあーだこーだと言ってくる。
だがこの世界に来てまだ間も無くモンスターとの戦い方なんて知らないし、ましてや剣なんて握った事もない。まぁ銃刀法違反になるから仕方がない。
結論、俺はこのモンスターに殺される。
「それはゴメンだな!」
俺はゴブリンに向かって剣を振り下ろした。
ースパッ!
ゴブリンの体はケンタの一太刀で真っ二つになった。
斬るのにはあまり力はいらなかった、なるほどこうゆう剣を技物と言うのだろう。
おや、もしかして勝てるかなと思うと急に自信が湧いて出てきた。
ースパッ!
ーズバッ!
そこから連続で二匹のゴブリンを斬り捨てた。
完全に自信が付いた俺はもう止まらない。
連続で斬り捨て、ゲームで得た知識で回転斬りなどを試してみたりもした。
そして最後のゴブリンを斬り捨てると俺は我に返った。
「まさか自分に剣の才能があるとは思わなんだ。」
自分の隠れた才能(?)に浸っていると鉄格子の中の二人がさっさと開けろだのなんだのと騒ぎ始めた。
俺は渋々、倒れたゴブリンから鍵を取り錠を開けた。
開ける最中もゴチャゴチャ言っていたがそれも聞き流した。
「あんた、やれば出来るじゃない」
「お褒めの言葉ありがとう。それより、洞窟の奥にも生徒の姿が無いけどどうゆうことだ?」
ふと松明の辺りを見てみると壁に違和感があることに気が付いた。
壁の岩肌の窪みに小さなスイッチがあった。
「んー」
ーポチッ
俺は押した。
ーゴゴー
さっきまで最奥だと思っていた壁は、何ということだろう。綺麗さっぱり、上へとシャッター開きしたではありませんか。
「ちょ、ケンタ。なにやったのアンタ!」
「本能の赴くままに。スイッチがあると押したくなるよね?」
俺の発言に対して二人は当然のようにスルーをかました。
兎にも角にも道が開けた俺達は奥へと進んだ。