ため息と俺
次の日、つまり訓練当日
朝起きた俺は一瞬いつもと違う朝の風景に戸惑ったがすぐに異世界に飛ばされたことを思いだし、ため息をつき落ち着いた
やっぱり...夢だったら笑える夢だったのにな....
朝から後ろ向きの思考を浮かべているとベットで寝ていたミルアが起きた
「!?誰よ、あんた!」
と驚き叫んだ
ドアを叩く音がする
「ミルアさん大丈夫ですか!?」
とドアの向こうから男たちの声がする
「ミルアさんの寝込みを襲う不届き者がいるやもしれん!ミルア新鋭隊の名に懸けてお守りするぞ!」
一人の声の後に賛同し男たちの雄たけびが響く
「まずいわ、ケンタ隠れなさい」
小声で健太に言うとミルアは最低限のを身だしなみを整えドアへ向かう
俺はといえば訳もわからずミルアの寝ていたベットの下へ潜りこんだ
いい香りがする.....
ミルアは健太が隠れたことを確認してドアを開けた
「ミルアさん!ご無事でしたか!」
新鋭隊の男たちがミルアの安否を確認してドアを閉めようとしたそのとき......
「ハクション!」
不覚だった.......俺はベタでもやらないクシャミをしてしまった......
「むっ!?誰かあのベットの下にいるのか?」
やはり当然のこと気付かれた
男たちがベットに近付こうとするのを慌ててミルアが止める
「レディーのベットに近寄るんじゃないわよ!あれは私が拾ったネコのクシャミよ!」
と絶対無理のある言い訳をした
親衛隊員は腑に落ちない様子だったがミルアに嫌われることを恐れしぶしぶと部屋から退却した
男たちが出ていったことを確認してベットの下から這い出てミルアに聞いた.....文句も言ってやった
「あいつら何なんだ?やけにお前のこと慕ってたけど...」
するとミルアはため息をつき話した
「私の親衛隊らいしわ...」
「親衛隊って....」
俺が素っ気なく返すとミルアはムッとして言う
「別にあいつらが勝手に親衛隊とかやってるだなんだからね?」
俺はむきになるミルアを見てちょっといじめてみたくなった
「あーはいはい、分かりましたよミルアおじょーさま((笑))」
俺は散々毒舌を言われた仕返しができて気分が良かった
がミルアはそんな俺にキレて呪文の詠唱を始めていた
「風の精霊の心を奏でよ......ウィン..」
俺は危機一髪ミルアの口を押さえ呪文詠唱を中断させた
ミルアの呪文詠唱が中断され、魔方陣が消えたことを確認して俺はふぅと安心のため息を漏らした
「こんな所で呪文使ったら部屋が滅茶苦茶になるだろ」
「そんなの分かってるわよ...寸前で止めるつもりだったのよ!」
ミルアはほっぺを膨らましムスッっと拗ねてしまった
俺はツンデレ乙と思いながらもなだめることにした
「えっと、悪かったな...馬鹿にしたりして...」
俺が謝ると分かれば良いのよ!と急に偉そうになった
まったく調子のいいやつだ.....
けど..ちょろいな!
俺はミルアの扱い方が少し分かってきた気がした
とりあえず仲直りの出来た俺達は朝食をとりに学園内にある食堂へ向かう事にした
食堂は別館の食堂館にあり、部屋から歩いて10分程で到着した
朝からの騒動のせいでかなり腹ペコだったため朝食が待ち遠しい
そう言えば昨日の晩から何も食ってなかったな...
そんな事を考えつつ朝食を受けとるため列に並んだ
列はそこまで長くはなかったが腹がへってて長く感じた
カップ麺の三分間を長く感じるのと似ている
ようやく俺の順番が来て朝食の受領に成功した
席に戻るとミルアと赤い髪の女性がもめていた
「あそこの男が異世界の人間ね、問題児のあなたにお似合いねミルア・ファルニア?」
と皮肉な笑みを浮かべ赤髪の女性が言う
もちろんミルアは馬鹿にされて黙ってるはずもなく言い返した
「あら、貴女はその無駄に!でかい乳でも揺らして男どもとパレードでもしてるのがお似合いじゃなくて?フレア・キルーシュ!」
そんな口論がしばらく続き俺は朝食を食べながら眺めていた
こういうのは出来るだけ関わらない方が良いと直感したからだ
そんなことを考え忍び足で食堂外へでようと試みた
が.......
「ウィンデア!!!」ミルアが呪文を唱える声が聞こえたかと思うと俺は宙に浮いていた
そのままミルアの方へと吸い込まれるように飛んだ
俺はもう現実から目を反らし、寝てしまいたかった....
「何処に行こうとしてたのかしら?」
先程までの口論と俺の脱走作戦によりミルアの怒りゲージは振り切れ寸前だった
俺は最善の言い訳を考えたが早々出てくるものではなかった
「えーっと.....お花を摘みに.....」
我ながら酷い言い訳だ
勿論ミルアは怒りを沈めずむしろヒートアップしてしまった
最悪だ..と俺は心のなかで嘆いた
「そんなにお花を摘みたいなら、あの世で永遠に摘んでなさい!!!!!!」
そう叫び食堂から出ていってしまった
俺そんなに悪いことをしたか....?
むしろ被害者のような気がしてならないのだが
「貴方も大変ね」
「誰のせいだか...」
思わずため息を漏らした
兎に角ミルアのご機嫌とりをしなくては今朝のミルア親衛隊になにをされるかわかったもんじゃないな...
「はぁ....」
この世界に居たらため息だけで地球温暖化を悪化させそうだな...
そう思いながらミルアを追いかけた
俺はなんとなくミルアの居る場所が分かった
図書館だ
扉を開けると案の定、ミルアはそこに居た
ムスッっと頬を膨らましたミルアが居た
俺は考えた
女の子の慰め方が分からない.....
落ち着け俺、大丈夫だ
「あの...さ..えっと。」
やばい、思い浮かばない...
えーっと....
「もぉ!!!なんであんたが困った顔してるのよ!」
更にムスッっとしてミルアが言う
やばい!とりあえず何か言わないと
「あのさ、俺気のきいた事言えないしお前の気に障ることも言うかもしれないけどさ......あぁ!!!うん。とりあえずごめん!!!」
俺は頭を真っ白にしながらミルアに土下座をした
「ふふっ」
不意に聞こえたミルアの笑い声に驚き顔を上げた
「何よそのポーズ なんでそんな格好しながら謝ってるのよ?」
ミルアは腹を抱えて大笑いしていた
こいつの笑いのツボがよくわからねぇ
まぁ多分とりあえず許してもらえた....のか?
「なにぼーっとしてるの?行くわよ」
ミルアが俺の手を引っ張り走り出す
ミルアの手は小さく柔らかく例えるならネコの肉球のような感触だった
これで性格も良ければなぁと何度思ったことか....ハァ
連れて行かれた先は学園の中で一番に広い中庭だった
そこには訓練へ向かう生徒達が集まっており賑わっていた
フレアの姿もあった
「すげー人数だな、これ全員で訓練に行くのか?」
「ええ、そうよ。だけどこの中で洞窟に行くのは半分、残りはボルグの森へ魔草を摘みに行くらしいわ」
正直草取りの方に行きたかったな....
「ちなみに洞窟ってゴブリンだけしか居ないのか?」
「先生が以前調べてきたらしいけど確かゴブリンだけだったみたいね」
ゴブリンは大体想像がつく
ゲームなどで出てくる雑魚キャラでレベル上げで大量虐殺されるモンスターだ
まぁ多分死ぬことはないだろうな
そんなことを考えているとハゲ頭の老けた先生が前に出てきて杖を高らかに上げ叫ぶ
「皆さん静粛に!」
ハゲ頭先生が叫ぶと途端に賑わっていた中庭が静まりかえった
そして杖を下ろし咳払いを一つして話出した
「本日、洞窟訓練の引率を致しますバートン・マッドと申します。皆さんの安全を守るため引率致しますので指示をしっかり守るようにしてください」
「おお!雰囲気でてるじゃん」
バートン先生を見て俺が言うとミルアに足を踏まれ、黙ってなさいと威圧された
モンスターよりもお前の方が怖い...
なんてことも言えず俺は静かにつったていた
そんなことをしている内に引率教師の自己紹介が終わり各訓練場所へ向かう生徒同士を集めていた
俺らの洞窟グループは何人かのメンバーを組み立て実戦訓練を行うらしい
で、その組み合わせが...
「なんであんたと一緒に行かなきゃならないのよ?フレア!!!」
「あら?こっちこそ問題児の貴方と一緒なんて勘弁してほしいわよ!!!」
どうしてこうなった!?
普通こういう組み合わせは生徒の関係を見て判断するだろ.....
どっちの世界でも先生という生き物は空気を読めないらしい
はぁ.....先が思いやられるな...
俺は深いため息をついた