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 ジュエリア美術館は淡い色調の建物だった。硬い感じがせず、町に不思議と調和するデザインで、周りは二メートルほどの高さでデザイン細工の細い柵と所々植えられた木々で囲まれていた。日はすでに姿を隠して、空に星をちりばめ始めていた。月も灰色の雲から顔を覗かせていた。今日は満月だ。そんな中、美術館の入り口付近はパトカーやマスコミたちの光で明るかった。

 ミルティスはその場所がよく見える木の枝の上に手をそえて立っていた。ティアラはミルティスの足元に。そして、その反対側の一段上の枝にはアドニスがミルティスたちと同じように立っていた。

「うらみっこなしなんだろ?」

 アドニスが遠方を見据えて言う。

「あぁ」

 とミルティスが下方の左右を見ながら応えた。

「好き勝手にやるぜ?」

「好きにしな」

「なら、俺が先に行くぜ」

 アドニスは音も無く、木から飛び下りて姿を消した。

 アドニスを見送った後、ミルティスとティアラもアドニスのように音を消して木から降りた。

 ミルティスはは美術館の裏口を見つけ出し、赤黒く錆付いた鉄の扉をゆっくり開ける。その後から、ティアラが忍び足で続く。少しぎっと鳴ってミルティスとティアラは中に入った。

 だが、誰もいなかった。

 電気は付いてなかったが月の光で十分見えた。次の扉を開けると従業員がいたであろう部屋だった。ここにも誰もいなかった。

 警備しなくていいのか?

 その次の扉が美術館の本館につながっている。壁を背にしてドアノブを右手で少し開けて左側を見る。そして、ドアノブを左手に持ち替えて扉を背にして右側を確認する。

 さらに誰もいない。

 オレ、かなり嘗められてないか?それか、どっかで隠れているのか?油断はしないほうがいいな。

 ミルティスは一度扉を閉めて、ここからティアラと別行動をとる。先に、美術館の警備室に忍び込んで、そこにいる警備員や警察官を眠らせて、防犯カメラを止める。

「目的地で会おう」

「えぇ。その間に捕まらないでね」

「任しときな」

 ティアラがいなくなってから、扉を少し開けたまま覗く。部屋からは小さいながらジーという音が聞こえる。防犯カメラだ。頭上と左右。 ミルティスはカメラの死角になる所を狙って、音を出さず足を進める。廊下に出て香水が展示されている部屋を目指す。

 微かに話し声が聞こえる。美術館の警備員と警察官たちだ。壁に背を向け、ミルティスはふところを探る。取り出したるは、睡眠ガス入りの手榴弾。ピンを抜いて投げ入れて、しばらく煙がおさまるのを待った。ばたっ、ばたっと一人ニ人と眠りについていくのが分かった。

 ミルティスは眠りに落ちた人たちをまたいだ。すると、上から天井裏を開ける音が聞こえた。まず、下りてきたのはティアラだった。次に下りてきたのはアドニスだった。手にはさっき投げたモノとよく似た手榴弾を持っていた。

「警備室の前で会ってね。仕事がやりやすかったわ」

 ティアラがミルティスの肩に乗って、言った。

「ここまで来やすかっただろ?人を眠らせたし、監視カメラや周りの通信器具も止めておいたんだ。感謝しな」

「お互い、ほとんど同じことを考えてたってことか」

 ミルティスはフッと笑う。

「で、どうすんだ?結果的には同着になったわけだが」

「それはこのお嬢さんに聞いてみないとな」

 ミルティスは香水が飾ってある方を見たので、ティアラとアドニスもそっちの方を見た。

 香水の展示台の上に少女が座っていた。長い薄い水色の髪をなびかせて、香水が入っているガラス箱の上で座っていた。

 その子はミルティスとアドニスと目が合うと、少しびっくりして首を傾げる。

「見えるの……ですか?」

「「バッチリな」」

 ミルティスとアドニスの声がそろった。

「私も見えるわ」

 ティアラも答えた。

 少女はふわりと台から降りて言った。

「お二人と猫さんは怪盗さん……なんですよね?」

「まあな。俺はミルティス。で、こいつが相棒の」

「ティアラです。私は怪盗じゃないけどね」

「オレはアドニス」

「私は……ミスト……です」

 二人と一匹はびっくりした顔をする。

「ミストって・・・・・・あの?」

 ティアラが聞く。

「はい。……みなさんは、ご存じなのですね。この香水の伝説を……」

 ミストは目線を落として、ガラス箱の上に左手を置いて、少し悲しそうに香水を眺めた。

「知ってるも何も俺はここで生まれ育ったしな」

 アドニスは答えた。

「俺とこいつは最近聞いた」

 ミルティスはそう言って、ティアラも頷いた。

「そうですか……」

 ミストは一息おいて言った。

「お三方にお頼みしたいことがあるのですが」

「何?」

 ティアラが答えた。

「私の、――いえ、この香水のもう一つを探していただけないでしょうか」

「もう一つと言うと碧色の方の香水ね」

「はい。私はずっと探していました。いろんな美術館に寄贈され、あの人を……。でも、今まで見つけることはできませんでした。もちろん、あの人が私のようにまだ、いるとは限りません。それでも、……会いたいんです。あの人に……」

 ミストの目に薄っすらと涙が浮かんでいた。

「いいぜ。見つけて、ここに持ってくるよ」

「お前、心当たりでもあるのか?」

 アドニスが不思議そうな顔をする。

「ほんの少し……な」

「こんな無理なお願いなのに……。本当に見つけて下さるのですか?」

「ああ。――ミスト、俺たちに時間をくれるか?」

「はい。長い間待ち続けたんです。それほど変わりはしません」

「そうか」

「はい」

 ミストは微笑んだ。それはすべてを信じている笑顔だった。

「じゃ、交渉成立ということで、早速行くわよ!」

 元気よくティアラが言う。

「でもよ、こいつらどうするんだ?」

 こいつらというのは今だ眠り続けている人たちのことだ。

「そのことなら、大丈夫ですよ。美術館の中の人たちが眠ってれば、他の人に伝わることはありませんし。この人たち、ずっと朝から警備とかで忙しそうだったので、滅多なことがなければ起きません。それに起こす人もいませんし」

 笑顔で言うミスト。

「そういうことだ。行くぞ、アドニス」

 ミルティスはアドニスを外へと促した。

 そして、二人と一匹は美術館を後にした。

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