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 ミルティスの髪の色は紫、アドニスは赤紫。何をしなくても歩くだけで目立つ二人。しかも、お互いがひけもとらぬかっこよさ。男なら物珍しさで振り返り、女なら目移りして振り返る。しかし、二人はまったく気にかけない。というよりも慣れているのである。お互いが同じ職業の怪盗で、目立つはずだが気付かれないという不思議な光景。とにかく目立つ二人だった。 今も歩くところには自然に道が出来ていた。しかし、本人たちは自覚なしである。

「話ってなんだ?」

 アドニスがミルティスに聞いた。

「ああ、オレと手を組まないか?」

 アドニスの右眉が動いた。

「それは俺に利益がある話なのか?」

「お前にあるかは分からないがどちらかには利益があるかもな」

「ほー、詳しく聞かせてもらおうか」

「お安いご用で」

 ミルティスは、通り道で見つけた静かな公園に入ってベンチに座った。アドニスも隣に座った。

「こんな話、街角で出来ないからな」

「まーな。ミルティス、用件を聞こうか」

 ミルティスは話し始めた。

「同じ日の、同じ時間で、同じモノを盗むと、オレとあんたの予告状を出す」

「いやだね」

 アドニスは即答で答えた。だが、ミルティスは驚かず、その答えを分かっていたようだった。

「俺はお前のように予告状などという物は出さない。予告状を出すっていうのはお前が目立ちたいからだろ?俺はそんなことをしないしするつもりもない」

「待てよ。オレは目立ちたいからとかそんな気持ちでやっているわけじゃない。これがオレのやり方だ。だが、今は言い争うために言ったんじゃない。あんたがいつもは予告状を出さないのに出す。そこが狙い目なんだ」

「どういうことだ」

 アドニスは変なことを言ったら承知しないぞとミルティスを睨みつけた。

「普段は出さない怪盗アドニスが予告状を送ってきた。しかも、同じ内容の予告状をオレも出してたとしたら、警察はどう思うと思う?これは、お互いが狙っていることを知っている。これは挑戦状ではないかと。ならば、両者が敵視をしているならば、自爆してもらおうじゃないかと」

「それは何か?俺たちが鉢合わせをした所を掴まえてしまえってことか?」

「まー、そんなところだ」

「それなら、こっちが不利にならないのか?」

「いや、警備は厳しくなるだろうが、一方が見つかったとしたら、そちらに警備の目は行く。そしたら、もう一方が香水を取りやすい。何回も重警備の中を潜り抜けて来たんだ。これぐらいは出来るだろ?」

「一方はおとりというわけか」

 アドニスはため息をついたあとに、唇をきゅっと笑いの形に引き寄せた。

「面白いじゃねーか。不本意だが、お前の案に乗ってやる」

「だから、言っただろ?どちらかには利益があると」

「そうだな。しかし、簡単に警察が動くとは思えないが」

「根拠はないが、オレを信じてみないか?」

「まー、手を組んだ限りはお前に付き合ってやるよ。だが、手柄は恨みっこなしだ」

「もちろんだ」

 何も考えてなさそうでアドニスは考えていた。ミルティスの笑顔の裏に何かあるかもしれないが、今は深く考えなかった。だが、ミルティスも自分が必ず香水を盗み出せるとは思ってない。それは、運があるかないかである。それに、アドニスと手を組もうと考えたのも、だだ、アドニスとの賭け引きを楽しむためだけだったりする。

「時間とかはどうする」

 アドニスが問う。

「そっちで決めてくれ。お前に合わせるよ」

「分かった。なら、今日の夜、電話する。アッシュの所の宿で泊まってるんだろ?」

「あぁ」

「連絡する」

 そして、二人は別れた。


 


 ミルティスは宿に戻って、二階の自分の部屋に入って、電気を付ける。

「ただいま」

 ミルティスは部屋にいるであろう者の返事を待ったが、返事は返ってこなかった。

 部屋にいるであろう者とはティアラである。

 ミルティスはベッドの上で丸くなって寝ているティアラに近付いた。ひざをついてティアラと同じ目線にして頭を撫でてやった。

 昼間付き合わせた為に疲れたのだろう。頭を撫でても、小声で呼びかけてみてもティアラは目を覚まさなかった。

 それを見てミルティスは、ティアラを起こさぬように部屋にあった雑誌などを読んで過ごした。





 ティアラが目を覚ましたのは午後七時過ぎだった。

 日も沈んで夜になった頃で、外は祭りで昼よりもより多くの人が集まり、賑やかになっていた。

 ティアラはあくびをして体を伸ばすと、ベッドを背もたれにして雑誌を読んでいるミルティスを見て言った。

「起こしてくれればよかったのに……」

「疲れてるのに無理やり起こそうなんてしないよ」

「そう?ありがと」

 とティアラは言うと体勢を整えて座った。

 ミルティスもベッドに腰を掛けた。

「夕食は?」

「食べてきた。祭りに行かないかってアッシュに言われたけど断って、早めに食べさせてもらったんだ」

「なら、今日の夜はゆっくりできそうね」

「そうだな」

 ミルティスは窓のさんに右肘を置いて顎を乗せた。

 多くの提灯の光が溢れ、隙間から差し込んだ光が小川に反射していた。

 空には光り輝く月が見え、その姿さえも小川は映していた。もうすぐ満月だ。

「アドニスと何話したの?」

 ミルティスはティアラを見た。

「アドニスと手を組んだ」

 ティアラは息を吐いた。

「いきなり、何を言い出すかと思えば、手を組んだってどういうことなのかしら、ミルティス君?」

「そのままの意味さ」

 ミルティスはアドニスと話したことをティアラにも話した。

「ふーん。面白そうなことを考えたものね。いいわ、付き合ってあげる。その代わり、負けたら承知しないんだからね」

 ティアラは笑みを浮かべた。

「分かってる。期待は裏切らない……と思う」

「そうして頂かなくてわね」

 ティアラはベッドから降りた。そして、ミルティスも背伸びをしたあと、座卓に置いてあったパンフレットを開けた。

 その時、ちょうど電話がなった。

 ミルティスは受話器を取った。



「誰だったの?」

「アドニス。明日の夜九時に行くって。予告状は自分で出しなってさ」

「そう。明日が勝負ってわけね」

 二人は顔を見合わせ、明日の行動について話し合った。

 外は祭りの熱気が収まらず、明るい夜が続いた。

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