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 町の名前はジュエリア。宝石ならばジュエリアにありと言われる町である。この町は観光地で、遊園地や美術館などの観光場所、年に四回、季節ごとに祭りがあるという盛んな町だった。

 ミルティスはティアラを肩に乗せたまま、宿を探した。宿がなければ計画も立てられないし、休むことさえ出来ない。

 目の前に広がる町並みの中で、一人の少年とミルティスの目が合った。というよりも、ティアラを見たという方が正しいかもしれない。目を輝かせて、ミルティスに近づいてきた。たぶん、猫好きなのだろう。髪は濃くも薄くもない緑。ちょうどいい感じだった。まだあどけない表情がミルティスよりも若いことを連想させた。

「ねーねー、その子猫、触ってもいい?」

「どうする?」

 ミルティスは右肩に乗っているティアラに聞いた。

「撫でるだけなら」

「だそうだ」

「ありがと」

 少年は本当にうれしそうにティアラの頭を撫でた。

 ティアラは気持ちいいらしく、目を細めてごろごろと鳴いた。

「かわいいね。この子猫。名前は?」

「私はティアラ」

「僕はアッシュ。よろしく」

「君は?」

「オレはミルティス。よろしく」

「こちらこそ」

 ちょうど、宿を探していたところだ。この子に聞けばどこかいい宿を教えてくれるだろう。

「ちょっと訊きたいんだけど、この辺に宿ってないか?」

「ミルティスって、この町初めて?」

「あぁ」

「ちょうど、僕の家がそうだよ。案内しようか?」

「頼むよ」

 二人と一匹は宿に向かった。宿に行くまでの通りは、アッシュが通るたびに、おはようと声を掛けてくる。よほどアッシュの宿がこの町では人気があるんだなあと思った。


 


 町の中央には噴水があり、その噴水の隣接したところに宿はあった。ニ階建ての木造の宿で、反対側は小川が流れていた。外は人で賑やかだったが、宿の中はもの静かでゆっくりできそうだった。

「一人部屋でいい?」

「あぁ」

 この宿は前払いらしく、ミルティスはアッシュに宿賃を払った。

 アッシュはちょっと待っててと言うとフロントに行った。

 アッシュがフロントに宿賃を払って、鍵をもらいに行っている間に、ミルティスはいろんなパンフレットが置いてある所から、香水が展示されているジュエリア博物館のパンフレットを手に取ってコートのポケットの中に入れた。すぐにアッシュが戻ってきて、手を出した。

「ミルティス、行こ。あと、これ。おつりね」

「えっ?」

 ミルティスはアッシュに宿賃をちょうど渡したはずだったので、疑問に思った。

「気にしなくていいよ」

 アッシュはミルティスの肩を叩くと、部屋を案内してくれた。

 ミルティスはアッシュの好意に甘えて、おつりを受け取って、後からついていった。





 部屋は二階にあった。入り口の奥に窓があり、その下に白いシーツと上掛け布団が敷いてあるベッド。中央には丸テーブルとニ脚の椅子があった。窓を開けると澄みきった空気が頬を撫で、ミルティスの髪を揺らした。外には小川が見えた。

「きれいな小川でしょ」

 とアッシュは鍵をテーブルの上に置いて話し掛けてきた。

「あぁ。それに、この町は自然が多いな」

「町中の皆が自然を守っているから。あとで、下に降りてみるといいよ」

「そうだな。そうしてみるよ」

「何かあったら、僕、下にいるから呼んで」

「分かった。ありがとな」

「どういたしまして」

 アッシュは部屋を出て行った。

 ミルティスは窓の下にあるベッドに腰を落とし、窓のさんに肘をついて、小川を見ていた。

 ティアラはベッドに上がるとミルティスに言った。

「いい人ね、アッシュって」

「あぁ」

「私たちが怪盗だって言ったら、どうすると思う?」

「さあな」

 せっかく、ティアラが話し掛けたというのに応えは即答で手短な答え。話が続かないじゃないと、ティアラはため息をついた。

「ホント、興味ないことには関心を向けないのね」

「今に始まったことじゃないだろ?」

「それもそうね。――ミルティス、小川の所に行かない?」

「いいけど……、もしかして窓から行くとか言わないよな?」

「あら、その通りよ。それにその方が早いし」

 ティアラはクスッと笑うと窓のさんに上った。

「怪盗は怪盗らしくということか」

 ミルティスは苦笑いをして、下を覗いた。小川の周りは短い緑色した短い草が覆い被さっていて、飛び下りるにはちょうどよかった。

 ティアラは窓のさんから飛び下りると、足のバネを使って衝撃を無くし、着地した。その後、ミルティスもよっと掛け声をかけて飛び下りた。着地はティアラと同じように足のバネを使っって着地した。

 小川の向こう側には林があり、黄色やオレンジ色に染まり始めた葉が見えた。

 ミルティスは小川に近づいて、手で小川の水をすくって飲んだ。冷たい水が喉を通るのがはっきり分かった。とてもおいしかった。

 もう一度、水をすくって、ティアラにも飲ませてあげた。

「これだけ町の中で自然が残っている所なんてないんじゃない?」

「あぁ。それだけこの町の住人は自然を大切にしているんだろうな」

「そうね」

 ミルティスは背伸びをすると、宿でできた日陰に腰を降ろした。ティアラもその隣で体を丸めて、眠る体制に入った。

 季節は秋になったばかり。

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