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ソライロパニック!!  作者: MURASHIGE
第1の課題 「全員の始まりを紡げ!」
3/4

2限目!

涼輔りょうすけは教室に戻った。だがいつも通りクラスにいるほとんどの全員は今までの追っかけが嘘のように感じるほど無反応だった。

黙って自分の席に戻り授業を受ける準備をしてると、中学時代からの親友、北条雅広ほうじょうまさひろに声をかけられた。

「よう、涼輔。どこまで逃げてたんだ?」

「どこって・・・。とにかく逃げてたよ。」

美術室での鈴本とのことは言わない方が良いだろう。

彼の性格だ。変な勘違いと共に余計な詮索入れられるに違いなかった。

「お前、大変だな。」

「雅広の方こそどこいたんだよ。朝食食べるときは一緒だったのに午前中は見かけなかったけど?」

ここの学校は全寮制で、食堂なども完備してあるので雅広とは一緒に朝食を食べ、教室に向かうことが多かった。

だが今日の朝は朝食は一緒に取ったのに教室へ行く時は涼輔1人だった。

久倉屋くぐらやのやろーと大食い勝負してた。」

「え?なんだって?」

「だから、久倉屋と大食い勝負してたって。」

「今の今まで?」

「ああ。」

大食い勝負だって?

俺はそんなイベントがあることは聞いてなかったんだが。

確かに今日の彼の朝食風景はいつもと違い変だった。

彼の向かい側の席には華奢な体つきをした女子生徒がいたような気がする。



遅刻ギリギリである今の食堂は数十分前のにぎやかな朝食風景が嘘のように静かだったのだが、そこにはまだ学生が三人いた。

「雅広~・・・。いい加減食べるのやめないと遅刻しちゃうぜ?」

「良いんだよ、はらふぇへんだはら(腹減ってんだから)」

雅広は声をかけているそばから口いっぱいに定食を詰め込んでいる。

そして、その向かい側にいる女子も雅広に負けていないくらいの量の定食を食べている。

「もう俺知らないからな。先に行ってるぜ。」


それで涼輔は教室に行ったのだが、雅広が言う限りその先があったらしい。

「えっとな、あのあと俺たち二人とも黙って食事をしてたんだがな、そのうちにどちらが食えるか、みたいなことになってな。でも食堂のおばさんに怒られたんだよね。そんなただの勝負じゃつまらないから、勝った方飯代ただにする。だから食べるだけ食べな、って言ったからさ。」

「何で勝負になった!?ってか食堂のおばさん、突っ込むところそこじゃないだろ!」

「ん?なんか変なこと言ったか?」

雅広が間抜けな顔しながら質問してくる。まぁ、こいつはこう言う奴なのだ。


雅広が思いっきり机を叩きながら立ちあがった。

「そろそろ遅刻するな」、と食器を下げようとしたら、目の前にいる久倉屋海莉くぐらやかいりが挑発してきたからだ。

「そのくらいしか食えないのか?」

彼女は雅広を嘲笑いながら罵った。

だらしなく着こなされただぶだぶの制服が揺れる。窓際の中庭の木をバックにして立つ彼女のその姿はどこか西洋で描かれた神の絵を眺めているような神聖さがあった。

「久倉屋・・・てめえ、俺と勝負しようってのか?」

「負ける気はないな。」

そう言い切った彼女の目の前には華奢な体のどこに全部入ったのか、綺麗に平らげられた焼き肉定食セット(250円)が5組置いてあった。

見た限り彼女も相当な食通らしい。だが雅広は大食いでは負ける気がしなかった。

「じゃあ、良いだろう。どっちが食えるか勝負してやる。今日一日かけてな。」

彼女は小さく頷き、雅広と勝負が始まった。


ようやく雅広は、誇らしそうに語り終えた。

「んで、結果は?あの子体小さかったし、当然勝ったんでしょ?」

「負けたよ。」

「え?」

「だから、負けたって。何回も言わせんなよ!」

雅広が悔しそうに言った。

どう考えてもあの華奢な女子生徒が雅広勝てるわけないのだが。

「冗談か?」

「本当だ。あいつたぶんまだ食ってるぜ?放課後行ってみようか?」

「いやいや、いくらなんでも放課後までは食ってないでしょ。ってかその子授業どうしてんのさ?」

大真面目で言ったつもりだったのだが雅広に思いっきり怪訝な顔で睨まれた。

「まさかとは思うが、お前D組の久蔵屋知らねえのか?」

「変か?」

雅広が思い切り首を縦に振る。

そして子供を諭すようなゆっくり口調で涼輔に話しかけてきた。

「あいつはな、プロの将棋棋士だ。将来はもう決まったようなもんだけど、高校はとりあえずってことで私立のここに入ったらしい。」

TVをまったくと言って良いほど見ない雅広がここまで知ってると言うことは彼女のことは相当有名だったらしい。

「食べる方は今日知った。まぁ、成績は俺より悪いって噂だがな。」

そんなすごい奴が隣のクラスにいて今まで気がつかなかったなんて。

確かにここに入学して一カ月だけどこれは気がつかない方がバカだったな。

「それでさ、成績が雅広より悪いってのだけは嘘だろ?」

それだけは信じられない。彼の学力はどうやってここに入ったんだと思えるほど悪く。毎日放課後に呼ばれるほどできないのだ。中学の時の通知表で数学のとこが空白(採点不可)だったこともあったな。なのでそんなにすごい天才少女がこんな彼に負けるわけがなかった。

「いや、それがマジなんだって。さっきの大食い勝負も負けそうになったからさりげなく数学の問題見せて、悪戦苦闘しているところを逃げてきた。」

雅広から話を聞くたびに現実から遠くなってきている気がする。

本当漫画みたいな話だ。


――――ガラガラッ――――――――

もうひとつ質問しようとしたところに不意に扉が開いた。


「北条!ようやく見つけたぞ。この卑怯者め!」

そこには怒りを顔に浮かべた少女がいた。彼女が久倉屋さんか。

誰もが予想していない天才少女の登場にはみんな注目していた。

雅広の隣に座っていた女子が久倉屋を止めにかかっていた。

「久倉屋さん落ち付いて。バカ北条がなにしたかは知らないけど、いつもの事だからほっといてあげたら?」

「ええい、関係のない奴は口出しをするな!北条、よくも私に数学の問題をみせて逃げたな。これは返す!貴様、あとで覚えておけよ!」

久倉屋は、雅広の机に紙らしきものを叩きつけると逃げるようにそそくさと戻って行った。

雅広の机の上に広がったそれを覗き見ると、そこにはこう書かれていた。


2-2×1+9=?


パッと見でわかる小学生でも解ける計算だ。もちろん答えは0なのだが、答えのところには久倉屋さんらしき人の字で18と書かれていた。

「これは?」

「俺の出した問題だ・・・。マジで間違ってくるとは・・・。」

「思わないよね、普通は・・・。」

本当なのか冗談なのかわからない解答だったが、あそこまで怒ってる様子を見ると嘘ではないらしかった。


「おい、全員席に着け。」

先生が教室全体に声をかける。

先ほどの事件(?)でざわついていたクラスが静かになった。

先生の視線がこちらで止まった。

「北条、それと忠野お前らは後で職員室に来い。」

「え!?」

涼輔と雅広は同時に声を上げた。

二人ともなにもした覚えはなかった。

雅広の大食い勝負だって食堂のおばさんが了承してるんだからアウトではないはずだ。(遅刻はアウトだが)

「良いから来い。わかったな。」

「・・・はい。」

二人共、声をそろえて返事をした。

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