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アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡  作者: 夏川優希


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16話 リツは無敵の魔法少女♡


(は……? どういうこと?)



 ボスを探して部屋に入った途端、人形が組織に勧誘してきた――困惑するなという方が無理な話だ。

 律はまず部屋の中を見回した。誰かが腹話術しているのではないかと思ったが、どこにも人影はない。


 次に人形を鷲掴みにし、握りしめてみる。

 それは手の中で特に抵抗なく潰れた。ただのプラスチックの人形。一応調べてみるが、中にマイクやカメラが仕込まれている様子もない。


 つまり、これは〈黒き森〉ボスの能力によるものと考えたほうがいいだろう。

 警戒したプイプイが律を制止する。



「律さん! 不用意に触らない方がいいプイ!」


「いいや、いいんだよ。代わりはいくらでもいるからね」



 足元から声。

 見ると、今度は女の子の人形が床を這うようにして律に忍び寄っていた。

 踏み潰すと、今度は赤ん坊を模した人形が天井から机の上へと音を立てて落ちる。

 どうやら代わりはいくらでもいるという言葉は誇張じゃないらしい。

 つまりいくら壊してもムダ。



「君はどうして魔法少女をやっているのかな? 金のためなんだとしたら、その10倍の額を出そう」


(え……10倍……? マジで……?)



 人形の言葉に律の心の揺らぎを感じ取った――かは定かでないが、プイプイは強い口調で人形に反論してみせる。



「悪いことをしてお金を稼いだって仕方がないプイ! ねぇ律さん!」


「も……もちろん……♡」



 律は慌てて頷く。

 金額に驚いて少しだけ靡いたが、元来律は小市民であり善人である。

 いくら金を積まれても犯罪なんかできるはずはない。

 が、その事実を人形はこう切り捨てた。



「奴隷の考えだね」



 その言葉に、律はハッとする。

 さらに人形は続けた。



「思考停止だよ。正義のためなら金なんかいらない……そう妖精さんに思い込まされてないかな? それはね、“やりがい搾取”と言うんだよ」


「な、なんてこと言うプイ!」



 人形の言葉に驚いたのはプイプイだけではない。



『幹部がざぁこ♡だったからって魔法少女を怪人にスカウトとかwwwwwww』

『確かにリツの戦闘能力と煽り力は怪人になっても活躍できそうだけどwww』

『まぁ魔法少女の報酬が安いのは有名だけどな…』

『てかリツちゃんが怪人になったら人類終わりだろwwwwww』

『リツが怪人になんてなるわけないだろタコ!』

『そうだ。リツは正義のメスガキ魔法少女なんだからなぁ!』



「――そもそも僕ら怪人は本当に"悪"なのか?」



 リスナーたちの怒涛のコメントに答えるようにして、人形は話し出す。



「トロッコ問題って知ってるかな? 1人を犠牲にすることで5人を助けるべきか、なにもせず5人を見殺しにするべきかっていう倫理学の問題なんだけど。僕は1人を犠牲にしてでも5人を助けるべきだと思う。その5人が価値ある人間であればなおさらだ。価値の低い人間の臓器で、何人もの価値ある人間が助かる。僕らがやっているのはそういう事業なんだ」



 律は既視感を覚えていた。

 立て板に水という言葉がピッタリの流暢な話し方。

 新興宗教の教祖のような妙なカリスマ性。

 冷静に聞けばむちゃくちゃなことをさも正しいことのように見せる自信。

 この感覚を律は知っている。

 声も姿も分からないこの人間を知っている。

 律はそう直感した。



『なに言ってんだよ…』

『ヤバ…』

『これって臓器売買のこと言ってる…?』

『人の心とかないんか?』

『倫理観をどこかに置き忘れてるみたいだな』

『さすがクソき森の親玉』

『まさに外道』



 多分、“本体”はどこか別の場所にいて、遠隔操作で人形を操っているのだろうと律は考えた。

 そして配信を見ているのだろう。

 人形はコメントを受けてハッと気付いたように声を出す。



「ああそうか。いまは配信中だからね。怪人になるなんて公には言いにくいか。じゃあ理由を与えてあげるよ」



 そして、人形はこれまでと変わらない落ち着いた口調で言う。



「怪人にならないんだったら、殺す」


『なに言ってんだよwwwwwww』

『人形越しのくせにwwwww』

『部下たちが瞬殺されていったの見てなかったのかな?www』

『追い詰められてるのはお前だからなwwwwwwwww』

『やれるもんならやってみろざぁーこ♡』



 人形の言葉にすぐさまリスナーたちが噛みつく。

 ボスの能力がどんなものなのか、まだ確かなことが分かったわけではないが――少なくとも人形を操る程度の能力で律を倒すのは難しいだろう。

 それを、人形も認めた。そしてこう続けた。



「うん、殺すのは君じゃない。殺しても死ななそうだしね。殺すのは君の周りの人たちさ」


『は…?』

『それってどういう…?』

『おいおいマジかよ』

『うわ…なんか、めっちゃイヤな予感が…』



 これまでの人形の余裕は、決して虚勢などではない。

 人形は切り札を持っていたのだ。

 そしてそれを容赦なく律に突きつけた。



「君のお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、親戚のお兄さんお姉さんやちびっこ、仲のいいお友達、担任の先生――殺すのは、そういう弱い人たちだ。君が守ってあげるかい? いつまで? まさか一生?」



 今までの淡々とした口調とは裏腹に、人形は楽しそうにそう言った。

 まるで律が取り乱し、泣きだし、すがりつくのを待っているみたいだった。



「これがオトナのやり方だ。理解(わか)ってくれたかな?」



 それがボスの――そして〈黒き森〉のやり方そのもの。

 どんな強者、権力者、頭の切れる者や強靱な組織にも必ず弱点がある。それを的確に突く。

 警察やマスコミ、果ては魔法少女まで〈黒き森〉に手出しできなかったその理由のすべてがここにある。



『マジかよ…』

『一族郎党人質に取られてるってことじゃん』

『でもそんなことできんの?』

『〈黒き森〉が本気になればできるんだろうな…』

『これはさすがにリツちゃんも…』

『じゃあメスガキ魔法少女が怪人になるってことか!?』

『マジかよ…リツが人類の敵になるとか絶望しかないんだが』



 リスナーたちの間にも絶望が蔓延していく。



「り、律さん……その……」



 プイプイはなにかをモゴモゴと言いかけて、しかしハッキリとした発音にはならずそのまま飲み込む。

 律の大事な人を守る――そう断言できたらどんなにいいだろう。

 しかしそんな無責任な約束はできなかった。

 魔法少女の素性や家族構成を調べ上げることを〈黒き森〉が実際にやっているのをプイプイはよく知っていたからだ。


 脅迫状が魔法少女の自宅に届いたり不審な人物が周囲をうろついたりする被害の報告がいくつも上がっている。

 だから魔法少女たちも〈黒き森〉にかかわることに尻込みしていたのである。


 律はつい先日までアラサー男性だったため、素性を調べるのに時間はかかるだろうが、それでも絶対に安全とは言い切れない。

 プイプイはすがるような目で律を見上げることしかできなかった。


 みなが固唾を飲んで見守る中。

 今まで人形の話をじっと聞いていた律が、ようやくその口を開いた。



「いないよ♡」


「ん?」



 言葉の意味が分からず、人形はぎこちない動きで首を傾げる。

 律はもう一度、ハッキリと言った。



「大事な人とか、リツにはいないよ♡」


「……そんなはずないだろう。嘘をついても無意味だ。調べればすぐに分かる」



 しかし律の言葉は嘘ではない。ハッタリでも、強がりでもなかった。

 友達なんかいない。恋人などいるはずもない。そして親や親戚も。


 もちろん生物学的な両親という意味ではいる。

 しかし彼らは律に対して「産む」という最低限のこと以外、およそ親らしいことをしなかった。

 だからこそ、律はブラック企業でどんなに酷い扱いを受けても会社を離れるという選択肢を選べなかったのだ。

 酷い扱いに慣れてしまっていて、なおかつ会社を辞めたあとの後ろ盾がないから。

 しかしその不幸ともいえる境遇が、この状況では武器になる。

 そして。



「リツのこと調べてもいいけどぉ……リツもお兄さんの正体分かっちゃったかも♡」


「私の正体? ふふふ、駆け引きは無しにしよう。警察も公安もたどり着けなかったのに、君のような子供がどうやって――」


「しゃべりすぎだよ、お兄さん……ううん。()()()()


「っ……!?」



 明確に声を出したわけではないが、明らかな動揺の気配が漂ってくる。



『社長?』

『どこの?』

『え、てことはリツちゃんは本当に正体分かってるってこと!?』

『マジかよ!』

『本当なら大スクープだぞ』

『一体どこの誰なの!?教えてメスガキ魔法少女!』



 と、リスナーたちのコメントが熱を帯びだした頃。

 カチリ、とどこかで音がして。

 次の瞬間。


 ドガアアアアアアアアアアァァァァン!!


 凄まじい爆発音が響き、配信画面が真っ暗になった。



『は!?』

『なにごと!!?』

『大丈夫か?なにが起きた?』

『リツちゃん返事して!!!』

『なぁ…〈黒き森〉のビルがある方角から煙出てねぇ…?』

『爆発だって!ニュースになってる!』

『まさかボスが口封じに…!?』

『リツちゃん…』


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