愛 19
零 の第十九話です。
鉄パイプは男の頭に強く当たり、男は倒れた。
「突然どうしました?」
男は困惑した様子でこちらを見る。
頭の部品の一部が欠け、動きも不自然になっていた。
あともう一撃加えられれば、壊せる!
もう一度鉄パイプを振り上げたとき、突然腕を掴まれ、床に叩きつけられた。
攻撃してきた…!
「女性は傷つけないのでは…」
「あなたに戦う気があるのなら、私も戦います。女性に手を上げないのはプログラムではなく、抵抗できないか弱き女性に手を上げることは倫理観に反するという学習によるものです。あなたは私の攻撃に抵抗できるため、手を上げても問題ないと判断したまでです」
男は笑顔で続けた。
「どうします?戦闘を再開しますか?」
「ああ。」
躊躇いなく答えた。
零の仇を討てるなら、どうなったって構わない。
こいつは今ここで、やる!
男は銃を取り出し、戦闘態勢になった。
戦いはすぐに始まった。
男の動きは鈍くなっているものの、銃を持っているせいでこっちが不利な状況だ。
銃弾の動きを予測しつつ隙を見て近づき、腹を殴ってそのまま後ろから頭を打ち砕いた。
男は倒れて戦闘不能状態になった。
戦いはあまりにあっさり終わった。
あんまり早すぎないだろうか。
所詮は交渉用アンドロイドだったということか。
念のため男の持っていた銃で数ヶ所を撃ち、データも破壊した。
手応えがなさすぎて逆にスッキリしない。
零はこんなのに殺されたのか。
しばらく立ち尽くした後、私はこのビルを去った。
あまりにも騒がしくしすぎたため、他の住人が様子を見にくるかと思ったが、誰も来なかった。
都合はよいが、薄気味悪い。
家に帰ってきた。
久しぶりの我が家。
零のいない家はなんだか違和感がすごい。
だんだん立っているのが辛くなってきた。
体が限界を迎えているのだ。
着替えもせずにベッドにダイブし、そのまま眠りについた。
起きたら目の前に零がいた。
一瞬意味が分からなかったが、私が駆け寄ると、零は私を抱き締めてくれた。
そして私を叱った。
あんなに殺意をむき出しにするなんてお前らしくない、と言われてしまった。
確かに、私らしくなかったかな。
ヤンキー時代のクセが出てしまったと言ったら、零は笑った。
私も一緒に笑った。
しばらくしたら零は向こうへ行ってしまった。
行ってほしくなかったけど、自然と受け入れられた。
はっと目が覚めた。
あれは夢か。
零がここにいるなんてこと、あるはずないか。
でも、幸せな夢だった。
またあの夢を見たいな。
日記には書くことが沢山だった。
書き終えた頃には、日記というより報告書のようになっていた。
まだ軍人時代のクセが抜けてないなぁ。
早いとこ直さないと。
次回もお楽しみに。