零 10
零 の第十話です。
零と私は兄妹だ。誰にも言っていないはずだった。零だって気付いていない。
でも、あの男は知っていた。
不気味に黒いあの目が、忘れられない。
どこかで見たことがあるような、あの目が。
「結局、この前お前は何をしてたんだ?」
零が聞いてきた。
「ひ、み、つ!」
「お前なあ」
零が呆れたような声を出す。
「言いたくないものは言いたくないんだも~ん」
なんとなく、零にはあいつの存在を知られてはいけない気がした。それに、これ以上心配をかけたくない。
「…ねえ零」
「何だ」
「もし私達が兄妹だって言ったら信じる?」
「お前が俺の妹だということか?」
「いや、もしもの話」
「そうだな」
零は少し考えた後、微笑んでこう言った。
「信じるよ。お前と話してると妹と話してる様な気分になるからな」
「そっかぁ」
「特にアホっぽいところがそっくりだ」
「アホじゃないし」
「本当かよ」
零、いやお兄ちゃん楽しそうだな。と、いうか微笑んでるところなんて久し振りに見た。
なんか昔に戻ったみたい。
ずっと、こんな毎日が続かないかなぁ。
「良かったんですか?あの女を逃がして。」
「良いんだよ。零が死んだなら用はない。」
「そうですか。ですがその割には寂しそうですね。」
「まあ、な。」
「何か隠し事でも?」
「いや。何もない。」
愛が帰ってきてしばらく経った。
俺は愛に変なことを聞かれた。
俺達が兄妹だと言ったら信じるか、と。
始めて会った時、若干雰囲気が妹に似ているなとは思ったが、特に気にしていなかった。
喋り方も、こういう人間はたくさんいるかと思って気にしてこなかった。
聞かれた時は適当に流そうと思っていたのに、俺の唇は本心を話した。
心の隅では本当に妹なのではないかとずっと思っていた。
でも名前が違うじゃないかと考え、悩んだ。
俺の妹の名前は愛衣音、あいつの名前は愛。
違うじゃないか。
……全然、違うじゃないか。
ずっと会いたかった妹が実はすぐ傍にいるなんてこと、こんな世の中では起こり得ない。
起こり得ないはずなんだ。
もしも愛が俺の妹でなかったらそれでいい。
でも、妹であってほしい。
妹が唯一の家族だから。
次回もお楽しみに。