プロローグ
※この作品には暴力的描写、流血表現、一部性的なニュアンスを含む描写があります。苦手な方はご注意ください。
俺の名前は佐藤涼。17歳。
ただの高校生だったはずだ。今は頬骨が砕け、肋骨も何本かいってる。血と汗と涙で顔はぐちゃぐちゃ、目の前が歪んで、もう何が何だかわからない。
どうして、こんなことになった? なんで俺ばっかり……どうして…?
「…メイ…を…離せよ……ギン…!」
全く言う事を聞かない身体を俺は許せなかった。ふざけんな。こんな事になるなら。
メイに触れることも、想いを伝えることもできずに──童貞のままで死ぬくらいなら。
こんなことになるなら、“世界の真実”なんて知らないままでよかった。
思い返せばあまり恵まれた人生とは言えなかったかもしれない。
両親は幼少期に事故で他界。遠縁の親戚が身元を保証してくれた。
昨日、その身元引受人の二人も──何も言わずに消えた。
学校は嫌いじゃなかった。はずだ。
右目が義眼で、色が違うってだけで距離を置かれて。俺のことを「かわいそう」とか「キモい」とか言ってくる奴はいたけど、「一緒にいよう」と言ってくれる奴はいなかった。
そんな俺に、たった一人だけ、真っ直ぐに向き合ってくれたのが――橘芽依だった。
「隠したいものは、隠したっていいんだよ。そんなの誰にだってあるんだから」
そう言って、彼女がくれたのがこの眼帯だ。俺は、それを肌身離さずつけていた。右目を隠すため、じゃない。――あの子との繋がりを、誰にも踏みにじられたくなかったから。
でも、そんな“日常”は、あの日、すべて終わった。放課後、ふとした気まぐれで入った書斎で、“それ”を見てしまった。
〈禁忌目録〉
そこには、今のこの国の真実が記されていた。
「俺たちが“幸せ”だと信じていたものは、全部、仕組まれていた。最初から、なにもかも…」
一番強く引っかかったのは、この一行。
“統治されている対象はこの書の文言を理解することすらできない”という箇所。
そして俺は、それを――理解してしまった。
その瞬間から、確かに俺の日常は、音を立てて崩れ始めていた。
〈禁忌目録〉──それは、“理解した瞬間に、命を狙われる”ものだったのだ。
そのとき、天井の梁に設置された監視カメラのランプが──赤く、脈打っていた。
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