池1
「ちょっといいかい?」
「は、はい」
佳奈ちゃんが返事をした。
佳奈ちゃんに詳しい説明はしていないから、変に意識することはあんまないと思うけど、私は違う。反射的に、後ろに下がりながら、その様子を見ていた。
無意識に息が上がる。
何も聞こえない。
二人は何を話しているのだろうか。
そんなことを思っていると、突然、レンがこちらを向いた。
「ちなみに、妹さん、具合悪そうですよ」
その声に佳奈ちゃんもこちらも向く。
「大丈夫!? 一体どうしたの?」
「……大丈夫…。何でもない」
それを黙って聞いていたレンがこちらにやって来た。
まるで、獲物を捉えたような鋭い目と視線が絡む。
「大丈夫じゃないくせに。捕まえたよ、澪里」
「っ……!」
思わず、息を飲む。
バレていた。
私は佳奈ちゃんの腕を掴む。佳奈ちゃんを連れて、建物のほうに向かって足を動かした。
咄嗟に建物のほうへ走ったのではなかった。
私は、最初に見た地図を思い出した。
この建物の裏には階段がある。それを使えば、建物を回って逃げることができるかもしれない。そんな薄い希望もレンが発した命令によって砕かれた。
「あの二人を追え。あと、第二図書館に続くドアを包囲しろ」
なぜ、そんなに私に執着するの……っ?
泣きたくなったのを堪えて、それでも足を動かす。
建物の横を通り、視界が開いた。目の前には池があり、そのすぐ左横には川が流れていた。その川を挟むように、森林がある。
右回りをして階段を上る。でも、上の部屋、第二図書館に繋がる扉の向こうにたくさんの人の気配を感じると、足が止まった。
このまま行っても、捕まることが分かっている。目が自然と池に向かった。