提案
「なら、私に協力して欲しいんだけど、頼めるかしら?」
女の子は興味を持ってくれたようだったが、まだ、迷っているようにも見えた。
言葉を続ける。
「お願い……っ!お金なら、いくらでも出すわ」
レンから逃れるためか、最低なことを言ってしまった……。でも、それほど、私は追い詰められていたのだと実感する。
スパイは自分の個人情報を知られるわけにはいかない。それが、命取りとなってきたスパイは多く見てきた。
「それに、あなたも生きる意味が見つかるかもしれない。もう、あなたしか頼れないの……っ」
私の状況にうすうす察したのか、女の子は頷いた。
「わかった。私にできることなら……。それに、どっちにしろ、もう捨てようとした命。これをあなたに差し上げる」
「本当にありがとうっ……」
了承してくれたことに涙を浮かべる。でも、まだ始まりなのだ。
「どんなに礼をいえば……」
とても嬉しかった。断れても良かったのだ。それでも、助けると言ってくれた女の子には、感謝しきれなかった。
私は考えたことを女の子に話した。
◇◇◇◇◇◇
私と女の子は建物の外に出た。
他の人から見れば、姉妹にしか見えないのだろう。
それぐらい似ていた。
二人とも肩まで伸びた髪に、白のワンピース。
髪色は違うけど、十分姉妹に見えていた。
そこで、私が先に口を開く。
「佳奈姉様ぁ、早く着きたいですね。おじいちゃん、おばあちゃん家に。私は方向音痴で頼りないですけど、姉様がいれば。力強いです!」
あの女の子──佳奈ちゃんはそれに応えるように言う。
「もう、甘えん坊ね。もうすぐよ、と言いたいところだけど、もうちょっとかかるかも」
「え〜、もう疲れました……」
「え!? 早くない?」
「私、姉様と違って体力がないんです」
なんて、たわいない話をしながら、レンの家来の包囲を突破できそうなところまで来た。
佳奈ちゃん……演技うまい
──そう、私の考えは“姉妹のふりををしながら、レンの家来の包囲を突破する”という作戦だったのだ。
しかし、現実はそう甘くなかった。
突然、佳奈ちゃんの足が止まったのだ。
え?と思い、佳奈ちゃんを見る。
すると、佳奈ちゃんはどこか一点を見つめていた。
「どうしたんですか?お姉様」
佳奈ちゃんの視線を辿る、と──
っ……。そこにはレンが居た。
レンの家来の包囲を突破するときに、どうやら偶然、レンの前を通ってしまったようだ。
冷や汗が流れる。
とりあいず、突破を先に越えよう。
「お姉様、行かないんですか?」
佳奈ちゃんは、はっと我に帰ったように言った。
「そ、そうだね。行きましょう」
ほっとした瞬間、あの男──レンが声をかけてきた。