報告【side 凛】
凛はある部屋にいた。
その部屋は黒に統一されており、校長室の先生が座る机と椅子が部屋の真ん中に置いてある。校長室と違うのは、とっても高級品であるということだ。いや、この部屋の全てのものが高級品で揃えられている。
部屋の真ん中の机に座る男がいた。凛はその男の前に来て、口を開いた。
「ボス、ただ今戻りました」
ボス、と呼ばれた男は、
「ご苦労様」
と、凛にねぎらいの言葉をかけた。
そう━━凛は今、ボスの部屋に報告しに来ていた。
「どうだった?」
「澪里ちゃんはいいスパイになりますよ。才能があります」
「そうか。どう思った?」
「多分、パーティーのときは本当の顔ですよ」
ボス……涼は以外そうに言った
「そうなのか?」
「ええ、しかし今は毎日違う顔ですよ」
「毎日?」
「はい、すごい才能ですよ。そして頭の回転も早いし、行動力もあります。運動神経も文句がいえません」
「珍しいな。そなたがそんなに褒めるなんて」
「ふふ、気に入りましたよ。実際に私が気に入るような人をわざと探して巡らせたのでは?本当に鞭とあめの使い方がうまいこと」
「褒められたと捉えていいのかい?」
「さあ、どうでしょう」
凛は考えていることが読めない表情で答えた。
「………」
「………」
どちらも何も言わずにシーンと部屋が静かになる。
そこで、凛は、
「じゃあ、私はもう報告が終わったので失礼します」
と言うと、くるりと涼に背を向け、ドアを目指した凛の背に涼は、
「澪里の教育係として色々教えてやってくれ」
と呟くように言う。
すると、凛は振り返って涼に向き合った。
「もちろんです。あんな美少女、私が逃すわけないじゃないですか」
それを聞いた涼はふっ、と小さく笑い「そうか」と言った。
「ああそれと」凛は思い出したように言う。
「レンという奴、澪里ちゃんの本名を知っていましたよ」
「なんだと!?」
涼は初耳だというように驚いた顔をしている。
「まあでも、たまたま聞こえたとかもありえますよ」
「そうか」
凛の言葉に涼は何か考え込んでいる。
「今度こそ失礼しますね」
「ああ」
と答えた涼はまだ、上の空だった。