EP96
牧野さんは、そう言ってから踵を返して、去っていきました。
そして、残ったのは冷たい視線。
「かいちょ〜なーにやってるんですか〜?」
「ちょっと潜入捜査を……」
「なんて大胆な人だ。さすが社長のお母さん、似たもの親子ですね〜」
「あらあ、そんな褒めないでくださいよ」
「褒めてませーん」
佐久間さんは、バッサリ切ると、私の背中を押して、ぎゅむとエレベーターに押し込みました。ボタンを押し、役員室の階へ。
「もうお役目御免なんですか? もう少し潜入したかったです」
私が肩を落としていると、佐久間さんが私が被っていた三角巾をとって、そして乱れた髪を直してくださいます。
「バレたらどうするんですかー。会長の威信が保てなくなってしまいますよ? ほんと、あなたってば全く目が離せませんね〜」
はあ、とため息をついています。
いい大人が怒られてしまったと、私は少し落ち込みました。
「ご迷惑やご心配をお掛けしまして、申し訳ございません。けれど、身バレはしませんでしたから大丈夫です。それに、収穫もあったんですよ」
「なんですかそれは?」
私は、かくかくしかじか、牧野さんとの会話をお話しをさせていただきました。
「ってことは、人事部の上司が原因ということですか?」
「そうです。上司がクソと仰っておりました」
「なるほど、分りました〜。ちょっと調べてみますね〜。ちなみに都さんはもう、こんな危険な潜入捜査しなくて結構ですからねえ」
都さん。
名前を呼ばれて、少しだけドキっとしましたが、歳のせいで動悸がするのかもと思い、気にしないように致しました。
「あと会長。会長は、『クソ』なんて言葉、似合いませんからね♡」
と、ウィンク。
以前からちょーーっと『クソ』って言葉を使っみたかったのもあって納得はいきませんでしたが、ここは大人の対応です。
「……承知しました」
そして、役員室に連行された次第でございます。




