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EP90
「千夏、大丈夫だ。俺がついてるから。俺らが絶対に『千堂屋』を守ってみせる」
「……井桁さ、ん」
背中を擦る手が優しかった。頭を撫でる手が優しかった。背中に回る腕が、力強かった。
「……ありがとう、ございます」
心が一気に、すうっと軽くなっていく。
「千夏……」
耳元で呼ばれる名前を残して、そうして、井桁さんは離れていった。運転席の定位置に戻る。シートベルトをする姿を見て、私も慌ててシートベルトをした。
「ん」
そして、井桁さんはドアポケットの中からティッシュを出し、私に差し出してくれた。
私は、それを受け取って涙を拭き、そしてぶびーと鼻をかんだ。
「……ほんとすみません。私、社長なのに」
すると、井桁さんはエンジンをかけると、「いいんじゃね? 社長つったっても、まだ大学卒業したばかりの、ひよっこだしな。千夏のペースで、少しずついきゃいいんだよ」
そして、ハンドルを握る。
「あんたはいろいろ頑張りすぎだ。社長に就任してから、怒涛のような毎日だったぞ。時々サボるぐらいでちょうどいい。わかったか?」
「はい」
胸が、ほわっと温かくなった。




