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毒舌秘書は社長の私を放っておけない。  作者: 三千
『うちの会社はクソなブラックです』
89/146

EP89


「社長……」

井桁さんは比較的広い路肩に車を停めると、シートベルトを外して、身を乗り出した。そして、私のシートベルトも外すと、「こっちこい」と言って手を伸ばしてくる。

「……いげ、た、さ、ん?」

涙でぼんやりとした視界のまま、私は井桁さんを見上げた。

「ほら、」

優しい声でそう言うと、井桁さんが私を抱きしめてくる。

ここは、ふぉ!! なんでっっ!!ってなる場面だが、私は今回のクソなブラックの投書の件で、かなり参ってしまっていたのだろう。

そのまま、素直に抱きしめられてしまった。

井桁さんの胸に顔を埋める。井桁さんは、両腕を私の背中に回し、片手で背中をさすり、もう一方の手で、頭をそっと撫でてくれた。ぽんぽん、さすさす、と。

「……すみません、みっともない姿を見せて。私、もっと頑張らないと。そうじゃなきゃ、パパの会社を……潰しちゃう……」

堰を切ったダムのように、どんどんといろいろな思いが溢れてきて、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまった。

大きな会社を、この歳で背負うという重圧もあり、そのプレッシャーに押しつぶされそうになり、眠れない日もあった。

けれど、弱音は吐けなかった。ママはママなりに頑張っているし、中高大の仲の良い友達で、起業したり、親のあとを継いだりした人はいなかったからだ。

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