EP80
「社長!! 少しお話したく、今お時間大丈夫ですか?」
本社をうろうろしていたら、社員に声を掛けられた。
パンツスーツですらりと背の高い、茶髪の女性だ。
首に下げている名札には、佐伯良之介とある。
あれ?
読み間違えたかな?
私が、??? の様子を見て、佐伯さんは「あの、私、トランスジェンダーなんです」
弱々しく笑う。
「自分では女性と思ってるんですけど、名前が……もろ男性の名前ですよね」
「そうなんですね。親御さんからいただいたお名前なので、大切にせねばとは思いますが、もし佐伯さんが苗字だけの表記にして欲しいとあらば、変えてもらっても構いませんよ」
「え?! そ、そうですか。ではそうしていただいても大丈夫ですか?」
「もちろんです。販売店の店員さんには個人情報の観点から、苗字のみの表記にさせていただいております。とんでもないお客様に目をつけられて、ストーカーされても困りますからね」
「ありがとうございます」
近くにある会議室へと、佐伯さんを促した。
「どうぞ」
イスを勧めると、佐伯さんはそろりと慎重にそこに座る。緊張しているようだ。
「それで、お話ってなんでした?」
「あ、はい。その、大したことではないんですけど。私、以前、リクエスト用紙で『私は何をやっても遅くてトロいので、周囲に迷惑を掛けてしまう』旨、ご相談しました者です」
「ああ、あの『愛は愛してからこそ愛』をリクエストしてくださった方!」




