EP69
「では、慰労会かなにかで?」
「はい。大々的になにをやるってことはないんですけど、毎年MVPや優秀賞などの授与式的なことをやりますので〜」
「まあ! それは楽しみです。皆さんにお会いできますから」
「その時に、社長や会長の就任祝いも同時開催でとは思っていますよ♪」
「う、嬉しいですね」
あら? どうされた?
都さんは、そっと目頭を指でつまむ。じわりと滲んできた涙を、その細い指先ですいっと拭いた。
「すみません、なんだかパパのことを思い出してしまって……自分が経営側に立ってみて初めて、経営の大変さや厳しさを思い知りましたのでね。パパったら愚痴ひとつ言わない人だったから……」
「そうですね。先代の働きぶりは相当なものでしたよ。繁忙期には、まるで夜叉のような風貌をされてました。けれど、どんなミスがあっても、決して怒鳴らない。社員には優しいんですよね。それで、我々も社長についていこう!! ってなって」
都さんはハンカチを出して目元を押さえながら、鼻を啜った。
「パパ……ありがとう」
そう呟きながら、側に置いてあったティッシュを電光石火のごとく引き抜き、ちーーんと鼻をかんだ。
(会長なんて重責、普通は逃げ出したくなるだろうな……)
鼻をずびずび言わせながら、はあっとため息をつく。
うっかり。抱きしめて慰めたくなった。大丈夫ですよ、僕や井桁がついてますからね、と。




