EP55
「ではこのまま、この商品、進めてくださいね」
私は、げふっと満足、お腹をさすりながら、役員室へと戻る。そのエレベーターの中で数人の社員と一緒になり、「失礼は重々承知の上ですが、確か社長であらせられますよね?」と問われながら、挨拶をされた。
本社の中を飛び回っていて、トイレの位置などはもう把握済みだけれど、まだ大半の社員の人たちとは話せてなかったので、認知度はまだまだ。ここはコミュニケーションをぜひとも。
「あのう。お聞きしたいことがあるんですが。終業時間に流す曲で、リクエストってありますか?」
「「「「え!?」」」」
一同、顔を見合わせている。
「り、リクエストしても良いんですか?」
恐る恐るという感じだ。
「ラヴェルのボレロばっかりじゃ飽きちゃいますよね」
「あっでも、あの曲凄く家に帰りたくなりますよ。最後のティラリーティララララララッ!! で、よし! 帰るぞ!! みたいに」
「あはは、それは良かったです(^ν^)でも他にも色々と音楽かけたいんですよね。私、イマドキの曲、全然わからないんで教えて貰えると助かります〜」
社員の表情が緩んだ気がする。なかなか良いぞ。
「えっと、じゃあ〇〇〇〇の〇〇〇〇で」
「私は〇〇〇〇。有名なやつです」
「〇〇〇〇の〇〇〇でお願いしまあす」
マルの波状攻撃か。
私、こう見えても最近のボーイズグループやらガールズグループやら、あんまり聞かないし知らないので、全てが◯に聞こえるってわけ。
「あ、じゃあ投書箱作るので、その中にいれてください!! お疲れ様でーす」
そう言って、エレベーターを降りた。
役員室に戻ると、さっそくリク用紙を作る。箱に細長い穴を開けて、手作り感満載の投書箱が完成。
上から覗き込んだ佐久間さんが、
「お。なんか面白そうなの、作ってますねえ〜」
リク用紙を一枚取り上げて、ふむふむと読む。




