EP50
すると、都さんが、箸を置いて問うた。
「雅也さん、もしかして……」
そう言って、右手で耳を押さえる。
都さんが何をやっているのか、自分にはわからなかったが、それに山路社長が反応した。「あっ」と言葉が跳ねる。
「わかりましたか。雅也は難聴の障害がありましてね。普段は読唇術を使ってますので、お相手さまが何を言っているかは、大体はわかるんですけど、時々理解できない時もあるみたいで」
なるほど。それでさっき僕が言ったことに首をかしげたのか。
僕が言い直そうとしたら、その前に都さんが両手を出し、人差し指だけで指先をくるくると回し、そのままアゴに右小指をつけ、どうぞのハンドサイン。
はあ? もしかしてこれって手話?
そこで雅也さんの表情が、ぱあっと明るくなり、雅也さんも手話を使い始めた。
「おや、千堂さんは手話を知ってみえるんですね」
山路社長が、嬉しそうに言う。
「はい。娘と一緒に習いました。うちの社長とも良かったらお話ししてくださいね。どうぞ末永くお付き合いください」
『ありがとうございます』
雅也さんも嬉しそうにしている。
会長、都さんの手腕でなかなか良い雰囲気に会食が終わった。
そしてここからちょっと通常では考えられない方向へと話は向かっていったのだ。
割烹で会計をする時のことだった。
山路さんがクレジットカードを出して、一括でと渡している。
そこへ、ちょっと待ったーーーーと、都さんが割って入る。




