EP46
直ぐにどっかに行ってしまい、なかなか帰ってこない。まったくもって自由人。
「あの行動力はすげーけど」
声に出てしまっていたようだ。佐久間っちが、こちらを向いた。
「ね!! ほんとすごいよね。でご本人今どちらに?」
「それがわからないんですよ。家電量販店に行くとは言っていましたけどね。どこふらついてんのか」
「可愛いよね」
は?
俺は耳を疑った。
「なんだって?」
「なんかさあ、結構頑張ってると思うんだよね。東西南北、奔走してるって感じ」
「まあそれはそうですけど」
「可愛いよね」
2度目だな……
「……そうです? あんなのどこにでもいる顔ですよ」
「いやあ顔じゃないんだよねえ。なんだろう。動きとかがさ、小動物っぽくない?」
「ああ……そういえばカワウソにちょっと似てるかも」
ぶっはと佐久間っちが吹き出した。
「似てる似てる!! ま、いげちゃんも相手がカワウソだと思って」
「カワウソだと思って……?」
「可愛がってあげたらいんじゃない?」
「だーーーー!!」
可愛がるだと? そんなことできるかよっ!!
でもまあ、カワウソだと思えば、怒りが抑えられるかもしれんな。やってみよう。
*
あれ? カワウソだな。
カワウソに見えてきた。反省してるのか、なんかもじもじしている。
「いきなり出てってすみません。どうしても外せないミッションがありまして」
手にはエコバッグ。中に何か入っているようだ。
「これ、領収書です。スピーカー買ってきました」
「……なんのためにですか?」
「社内放送しよっかなって」
「はあ」
「退勤するときに、曲を流そうと思いまして」
なるほど、残業をなるべく無しにする方向でってことか。
「蛍の光かなんかですか?」
社長はううんとかぶりを振り、スマホをカバンから取り出し、曲をかけた。
「これが良いかなって」
「え? これは有名なラヴェルのボレロ? です?」




