EP41
なんやかやで丸く収まった(?)フロアが静寂に包まれる。
母がまるで社内放送のように、拡声器持参で回ったからか、みなさん追い出されるように早々に帰宅。
「じゃ帰ります」
お疲れ様お先にねーと母はさっさと帰っていった。
台風のような女性だ。私はずっと母はお淑やかで大人しい人なのだと思っていた。私が知らない母の一面を見た気がして、目の覚める思いがしたのだ。
確かに父、先代の社長はあまり家には居なかった気がする。家族3人で出掛けた記憶もそんなにない。
ただ、外食だけはよく食べに出掛けていた。
家族との食事を大切にしていたのかもしれない。
その代わりライバル店の偵察にも連れて行かれた。食事をしてから必ず目新しいデザートを注文するのだ。
断面を見たり、味が良ければ、想像できる材料や作り方などをメモしたりと、ライバル心を含みつつ研究熱心だった。
「俺は面が割れているから、千夏が買ってきて」
千円札を握らされ、ひとり近所に新しくできた洋菓子店に行かされ爆買いしてきたことも。
「でもあのお店、3年くらいで潰れちゃったんだよね。けっこう美味しかったのに……」
その時に、自営業の経営の難しさや恐ろしさを知ったのだ。
「パパ、頑張ってたんだな……」
それは、副社長佐久間さんや秘書井桁さんが時折話す、逸話からも読み取れた。
「先代は、自社製品を置いて貰えるお店を、どうやってか見つけてくるんですよね。たぶん『足で稼ぐ』的な感じで、あちこち飛び込みしてたと思うんです」
「はあ?? 飛び込みですか?? そりゃ大変ですよね」
帰宅時間が遅くなるのも仕方がなかったんだな。




