EP35
それは大きな花束だった。
悟さんが、照れながらも、ずいっと渡してくる。
「俺たち、その……ちな、社長にはほんとお世話になったんで。たぶん新人さん連れてくるときに、あのコワモテ秘書か社長ご本人がいらっしゃるだろうって思って……これ」
「今まで通り千夏で大丈夫ですよ。それにしても……えええ! こんなご立派な花束、わ、私にですか?」
「はい!! 」
バサっと渡される。ピンクのバラの香りが鼻腔の奥へと導かれる。それはとても良い香りだった。
なんで?
「も、貰えませんよ、こんな豪華な……」
「最初から千夏さんにお渡ししようと思ってましたから! 貰ってくれないと」
「そうですか……では……遠慮なく。ありがとうございます。店長にもお礼をお伝えください」
すると。
「いや、えっとこれは俺からで……千夏さん、その……この前のイカつい秘書とは……付き合って……??」
真顔で問われ、私はすんっとなり、即答した。
は? なんだって?
「ないです」
悟さんは、ほうっと息をつき、胸を撫で下ろす仕草をした。
ん??
「恋人は??」
「いないです」
「彼氏は??」
「いないです」
「彼女は??」
「いないです」
「好きな人は??」
「……いないです」
つらっ! なんか泣けてくる。私の人生。恋愛とは無関係、そして遥か彼方、ここからずっと遠いところに存在する。つらっ!!
だがなぜそこまで追い詰める?
精神攻撃、我が社に恨みでもあるのかいっ。
「じゃあ、良かったら俺と付き合ってください!!」
「ん??………………はい⤴︎???」




