EP30
「ママ、一緒にごはん食べよー」
トントンとノック。だが、シーン。
「いないのかな」
そういえば副社長の佐久間さんもいない。
「どこかに出掛けているのかな……」
誰もいない役員室にて、私はひとり寂しさに震えながら、ぼっちでランチを取った。
*
「大丈夫です。とにかく会長のお席に、借りてきた猫のように、大人しく座っててくだされば、あとは私たちでなんとかします」
とまあ井桁くんは、そんなことを言っていたけれど。いげちゃーーん、さすがに会長が、“これ“ではなあ。
「佐久間さん、この書類、ここにハンコを捺すだけでいいのかしら? シャチハタはだめ? なあに、それは食べられるの?」
「この、『山路商会』さんとの会食ってのは、ごはん食べるだけでいいのかしら? 天麩羅? 大好物です。楽しみね〜〜」
「我が社の工場見学ツアー? 行く行く〜〜楽しそう!! お土産あるのかしら。千夏……社長と一緒に参加します!! ಠ_ಠキリッ」
いやいやいや、ヤバいくらい会社経営とは、とおーいところに存在するやつだね。ほんと名ばかりの会長ってやつ。
さすがにマズイよ〜。シャチハタだけでは乗り越えられないやつーー。
とりあえず山路商会さんとの会食までに、山路さんとのお付き合いの経緯を説明しなくちゃね。
僕はすぐにも『山路商会』さんに電話。
「会長、午後に山路さんとアポ取りましたので、早めにランチに出掛けて、その際に僕が説明しますね」
「わかりました!」
二人、社を出て、山路さんの近くにある定食屋に入った。




