EP28
「それでは松谷町販売店の空いた穴には、パートさんを二人、派遣しますね」
「……派遣しますねって……千夏ちゃん? キミ、まさか……」
店長も悟さんも目が皿のようになっている。
「はい。4月1日付けで『千堂屋』社長に就任しました、千堂千夏と申します。これからもどうぞよろしくお願いしまっす」
大きくお辞儀をし、目一杯の挨拶をして笑った。
*
「しっかしすげー驚いてましたね、店長と息子。それに、なんだかんだで上手くいきましたね」
車を運転しながら、井桁さんがぽつりと言った。
「うーん。上手くいったってわけでもないけど……結局立花さんを辞めさせた形になっちゃったから」
「社長。あなたはドMですか? あんだけ頭のおかしな女に引っ掻き回された挙句、我が社の売り上げの足を引っ張ってるわけですよ? あの色ボケ店長もろともクビでも良かったのでは?」
「厳しーなー」
あははと私は苦笑い。
「そりゃそーでしょ。社長の腕に我が社の命運がかかってるんです。300人の社員が社長の一挙手一投足に振り回されるんですよ」
「うん。わかってる」
素直に頷いた。シンママの立花さん。娘さんを育てるのに必死なんだろう。自業自得とはいえ、職を失った。
自業自得? ううん、私のせいでもある。
うーん。やっぱクルものがあるなあ。これは罪悪感、か。
「ただね。千夏さんは頑張りましたよ」
そう言って、隣から手が伸びてきて、私の頭を覆った。そのままヨシヨシと撫でる。
「え……?」
ドキッと胸が鳴った。大きな手が、髪をぐちゃぐちゃと掻き乱していく。
えええーわわわーーー。
「えええっと……あ、ありがとうございます」
それに、『社長』ではなく名前呼びだったきがする。ふいにだったので、聞き間違いかもしれないけど。
ぽぽぽと顔が火照ってしまい、困ってしまった。
手でパタパタとあおぐ。
「なんですか? 暑いんですか?」




