EP21
「よっし、じゃあ行きますよ〜」
私は、井桁さんの腕に、腕を絡ませた。
「ちょ、っと、社長!」
「しーーー!! 私は今は社長ではない。ただの一兵卒! それに声がデカ過ぎる」
すると、顔をしかめ、声量ボリュームOFFしながら、
「あんまひっつくんじゃねえ!」と、腕を振りほどこうとする。
「これやんなきゃ、恋人同士に見えないでしょ!? 我慢するっ」
「くそ! なんで俺が……こんなこと」
本日、井桁氏を翻弄してるワシ。
気持ちいいがな。
ふと横を見上げると、ほんのり顔が赤くなっているようにも見える。
可愛いとこあるじゃ……あ。いやこれ怒りで赤いだけだわ。
「凸げき!!」
そして、私と井桁さんは腕を組みつつ、店内へと入っていった。
*
立花美香。通称、女狐。
「いらっしゃいま」
で、女狐の動きがピタリと止まった。その時間、数秒。
そこで、私。
「お疲れ様です。今日は彼ぴとデートで来ちゃいましたあ」←精一杯のぶりっこ演技
全身を駆け巡るぞぞけと戦いながら、ラヴラヴを装う。
「え、ウソ、やだあ、千夏ちゃんの彼氏?? やだあ、ちょうイケメーーン」
はい。その通りイケメンです。
「ん〝ん〝ん〝 ……は、初めまして。しゃ……ち、」
シャチ?
「ち、千夏がいつもお世話になってます」
「こちらこそお♡千夏ちゃんとわあ、仲良くしてとぅえ」
と。ここで次の一手。
「ちょい厨房にお邪魔します。店長にエプロンについてお話があって」
と、井桁氏を店頭に置き去りにし、私は厨房へと入っていった。
中では店長と悟さんがプリンに消費期限のシールを貼っているところだった。
「お疲れ様です。お忙しいとこ、申し訳ないですが、ちょっと店長にお話がありまして」
私は悟さんに目配せする。すると、悟さんはうんうんと小さく頷いた。