EP16
私はこの日、意を決して、松谷町販売店の暖簾をくぐった。佐久間さんから電話があったためか面接かと思いきや、すでに採用。
真新しいエプロンを渡される。
社長とはいえ、挨拶したのは本社だけ。店舗の方々は私のことを知らないので、これは潜入捜査、仮面をつけた女、千堂千夏ってわけだ。
かっこよ。
それにしてもだ。
渡されたエプロンが真新しい。パートやバイトの履歴はどうだったかな。それがさっそく気になった。これは事件の匂いがするぞ。
「これとこれ。朝の仕事。後はおいおい伝えていくからね」
若い男性、神林悟、トゥェンティトゥー イヤーズオールドがムスッとした顔で自分の持ち場に戻っていった。
愛想も何もない。1ミリだってない。
そして。
親父さんの神林吾郎、フォーティ ファイブのこの人。店長。のはずなんだけどさー。
すぐに「さとる! ロールケーキのポップは作ったのか? この前作れって言っといただろ!」
と喧嘩腰に話す。
それがもう受け付けないのか、
「出来てますう⤴︎ こちとらやるこたやってんだよ! いちいちうるせえっつの!」
「なんだとぉ! 口答えすんじゃねえ!!」
応戦。
最初は、まあまあ落ち着いてお二人さん、って感じだったけど、頭上で何度も喧嘩応戦されちゃ、こっちも頭が痛くなってくる。
「はぁ。疲れ……た……お、お疲れ様でした〜」
洋菓子のシフォンケーキに生クリームを詰め、やっと厨房の仕事が終わったよ、ふーー。
それから店頭の仕事を覚えようと思い、店へと出る。ショーケースをふきふきしながら、アルバイトの佐藤環さんにそれとなーく近づいていく。
「今日からバイトで入ります。よろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。佐藤です」




