EP145
「あんたが就任した当初はな。正直言うとな。こんな小娘じゃ、『千堂屋』はやってけねえ、引っ張っていけねえって、思ってナメてた」
「そりゃそうですよ。こんな若造。だって、私自身もそう思ってましたから」
「違いねえ」
はははと高らかに笑う。
「ハラハラすることもあったよな。でもよ、あんたは頑張って、この『千堂屋』を軌道に乗せやがった。度胸もあって、優しくてよ。社員のことを、いっとうに考えてくれている。まあ、時々は暴走しちまうけどよ。あんたには先代の血が、確実に流れていると、俺は思う」
「そうですか、井桁さんにそう言われると、嬉しいかも」
へへへと照れながら、俯いた。
「パパの苦労が、同じ立場になって初めてわかりました。親の苦労、子知らずですね。今さら、もう遅い……けど」
ほろ、と涙が溢れていく。
すると、井桁さんがぐいっと引き寄せて、私の頭を身体全体で包み込んでくれた。
井桁さんの胸なら、安心して泣ける。そう思うと、ほっとして、井桁さんの胸ぐらを掴んで、うわあんと大声で泣いてしまった。
背中をさすってくれる、井桁さんの、優しさ。
パパ、井桁さんを秘書にしてくれて、ありがとう。
そして、『千堂屋』をずっとずっと長い間、守り続けてくれて、本当にありがとう。
井桁さんの腕の中は、包まれているかのように安心で暖かくて、私は満たされていくのを感じた。




