EP143
私たち『千堂屋』が地道にやってきたこと。
それは、私ひとりでは絶対に出来なかったこと。
「社員は財産です。社員を大切にすることは、私の先代がずっと続けてきたことです。その中で良いと思うことは続けて、良くないことはバッサリ変えていく勇気を持つ。今年はこれで終わり、ではなく、来年もまた新たに挑戦する。これを繰り返していけるような環境を、まずは整えることが必要なのかなと思います」
私は息継ぎをする。
「ジェンダー代表の佐伯良之介さんが言っていました。社員は自分の生活の良し悪しが根底にあり、土壌になっている、と。その土壌が整備されていないと、花は咲かないと」
メモ帳を閉じた。
「というわけで、むやみやたらに残業させず、就業時間内に終わるよう仕事を割り振るように、上司の意識改革からやってみてはいかがでしょうか?」
そして、私たちは『フジツヤ』を後にした。
『千堂屋』の役員室へと帰る。
佐久間さん、ママ、井桁さん、私の四人になってから、私は思っていたことをすべて吐き出した。
「え、待って、『フジツヤ』めっちゃブラックなんだけど!! 残業、ハンパないし!! みんな死んだ魚の目みたいになってた!!」
「えええー千夏ちゃん、そうなの?」
「ヤバいくらいの仕事量こなしてたよな」
「はい。あんなの、社員さんが壊れちゃいますよね」
「そこが伸び悩みの原因だったわけですね」
「ですです! 私はそう思います!」
私はうーんと頭を抱えてしまった。わかってもらえただろうか? 社員は財産と、切々と説いてしまったのだが。




