EP120
「助かります! 研修受ける前に、一読しておけば、理解が早いと思うんですよね。では、牧野さん、お手数ですがよろしくお願いします!」
神林さんは、清涼飲料水を振り撒くかのように、自分のデスクへと戻っていった。
俺も頭を下げてから、自席へと戻る。
「なんだかんだ助かったな……」
そして、戻ってきた資料。
「色々チェックしていたらミスがあったぞ。付箋貼っておいたから訂正するようにね」
「ありがとうございます」
自席に戻って、確認してみると……。
誤字脱字が直してある程度で、内容はそのまま。これは、新人研修の資料としては、『通った』ということになる。
(なんだよ、これで良いんじゃないか。あのままいってたら、またくどくど説教からのやり直しになってたじゃないか……)
「なんか複雑だな……」
けれど、ネチネチお説教からは免れた。
神林さんは、人事部の皆に声を掛けていて、すでに周囲に溶け込んでいる。
とにかく、明るくて前向きなのだ。
たった一人、異動で新入社員が来ただけで、こうも雰囲気が変わるのか。
「俺も神林さんを見習って、前向きでいかなきゃな……」
投書なんかでうちの会社はブラックですとか文句垂れてる場合じゃないぞ。
俺は資料の中で、気になっている箇所の精査をし始めた。




