EP116
私は笑いながら、「そんなことありませんよ。井桁さんに対して、悪口なんて1つもありません。仕事はできるし、ハイスペックだし、頼りがいがありますし」
「……もう一つあるだろ」
「え? といいますと?」
「ほら、ハイスペ、シゴデキ……あともう一つ!」
「……えっとお……背が高い」
「違う」
「優しいし、良い人」
「そうだけど違う」
「スラッとしている」
「近い!! もう一声!!」
「あとは……毒舌」
「毒舌ってのは、褒め言葉じゃねーだろ」
「はいはいはいのはい!! イケメン!」
「そう! それだ!」
「井桁さんのイケメンなんて標準装備だから、ぱっと思いつかなかったです」
「そ、そっか……それなら仕方がない」
資料を片付けながら、私は井桁さんの方を見た。おお、顔が真っ赤ではないか。
何を言わせたいんだかと、私はクスっと笑ってから、その資料をカバンに詰めて、退勤の用意をした。
「それじゃ、今日はもう帰りますね。お疲れ様です」
「おう。お疲れ様でした。私はもう少し、書類を整理してから帰ります」
「無理しないで下さいね」
まだ、顔が赤い。
「あれ? 井桁さん、大丈夫ですか? もしかして熱っぽい?」
私が、井桁さんのおでこに手を当てると、井桁さんはふうっと息を吐いて、その手を握った。
「熱はないです」
「そ、そうですか。ならいいんですけど」
手を握られたまま、下へと下ろしていく。井桁さんの手は、ほわりと温かかった。
その手を離そうとしたら、少しだけグイッと引っ張られた。距離が近づく。
私は、もしかしたら、また抱きしめられるのではないかと思って、体に力が入ってしまった。
「あの、お、先に失礼します」
けれど、手は離れない。
「い、井桁、さん」




