EP109
「……千夏」
えええ名前呼び捨て、わい社長なんだけど……などといつものようにツッコんでる場合じゃない!
「井桁さ、ん」
さらに顔が近付いてくる。
そして。
「うん。イケる」
そして、両肩から手を離すと、さっと踵を返して部屋を退出してしまった。
「え、え、え?? え?」
役員室に残された私。ぽつねん。
「良かったねえ、イケるってさ!!」
背後で能天気な声がして、振り返ると。
「佐久間さあぁぁぁぁん!!」
恥ずかしいーーー居るなら居るって言ってよ!!
「いやいや、さっきからずっと居たし」
「ちょ、佐久間さん、井桁さんってばなんなんっすかね? ちょ待てよ! なんであんなことするんっすか? ってか見ました? がっつり見ました?」
パニックになりつつ、私は真っ赤になった顔を両手で覆った。
やばい。心臓やばい。
抱きしめられて、心臓やばい。
「見てないよお」
はーーーニコニコの顔がうっざーい。
*
「え、ちょっと待て。イケる。マジでイケる」
俺はトイレの洗面で顔をバシャバシャと洗い、鏡に映る自分を見る。
「なんでこんな……俺の顔、真っ赤じゃねえか!」
モヤモヤして自分の顔をパンパンと叩いた。さらに頬が赤くなる。
「……キス……するとこだった」
あぶね。
めっちゃあぶっねーー。




