EP1
「パパ……」
涙が溢れてきて、止まらない。
私はぱんぱんに腫れた目頭にハンカチを押し付ける。
父が突然亡くなった。
悲しみに暮れる間もなく、父が経営していた洋菓子店『千堂屋』を継ぐことになってしまった。
「千夏ちゃん、どうしましょう? ママ、社長なんてできないわ! お願い、千夏ちゃんが社長になってくれない?」
「ちょ!! ママ!! 私だって、社長なんて出来ないよ!! それに私、まだ大学生なんだけどぉ!!」
「でも……ほら、パパの遺した遺言にも……千夏を次期社長に任命するって……パパが言うことなら間違いないわ。パパは千夏のことよく見てたし、千夏ならこの難局を乗り切れる、千夏は出来る子だって、きっとそう判断して……パパ……パパぁぁあ、なーんで死んじゃったのよおぉぉぉまだ早いわよおぉぉ」
「パパぁぁぁあああ」
母と子、二人抱き合いながら悲嘆に暮れる。
父が大好きだった。とても厳しかったけれど、仕事熱心で。
大忙しの中、それでも家族を大切にしてくれた。優しい父だった。
急な逝去だったけれど、親戚や役員の皆さまに助けられ、なんとかお葬式をあげることができまして。
少し落ち着いてから、法務局に預けてあった父の遺言を、弁護士立ち会いのもと開けてみたら、こんなことになってます。
「千夏ちゃん、パパの意志を尊重してちょうだい! 大丈夫よ、副社長の佐久間さんは、ちょっとアレだけどまだお若いのに優秀だし、秘書の井桁さんはちょっとアレだけど重役のミスを取りこぼさないと有名な方。きっと、千夏ちゃんを助けてくださるわ」
『ちょっとアレ』ってのが引っかかるうー。