6話 裏表
プロのマジシャンは常に見せ方を重視する
マジリストは心理を利用し…蟻を像に見せられるだろう
事務所 午前10:54
タリック「このコイン見て…」
タリックは裏表を見せると見せかけ表を二回見せる
ダン「あぁ…ただのコインだな」
レオ「…」
レオは無言で机の上のコーヒーを離して角砂糖の入ったお皿も離す
カレン「…」
カレンも少し離れたデスクから様子を見ていた
タリック「3…2…1…」
タリックがコインを振る…
するとコインの柄と色が変わる
ダン「おおー!!」
タリック「はは…すごいだろ?」
カレン「バカみたい」
カレンは少し離れたデスクで呆れたように腕を組む
タリック「あぁー」
ダン「なんだ?どうしたんだ?」
タリック「彼女怒ってるんだ…」
ダン「なんで?」
タリック「このマジック…カレンにもやったんだ…仕組みは簡単…最初表裏を見せる時にちょっとしたテクニックで表を二回見せるんだ…見せ方ひとつで、真実なんてすぐにすり替わる…スプーンをフォークに、恋人を敵に、正義を悪に、ね…見せ方によっちゃ…カレンはまぬけに…」
バン!!!!!
カレンが机にわざとらしく資料を強く置く
ダン「タリック…ここから2km行ったところに美味しいマフィンの店がある」
タリック「了解、逃げ足には自信あるからね!」
{~Magician~}
"Magilist"~人の“認知”を操る者。
ダイナー メイソン 午後13:02
ワトソン「はい…どうぞー」
マイク「ありがとうワトソン…ここのパンケーキは最高だ…」
マイクは新聞を見ながら言う
ワトソン「ええ…そうでしょ?教授さん…ふふ…それじゃ…コーヒーも持って来るから待ってて頂戴ね…」
マイク「あぁ…」
ワトソンとマイクは少し見つめ合うと
ワトソンはキッチンの方へ歩いていく…
ワトソン「モリアーティ?コーヒー出来てる?」
モリアーティ「あ…うん!持って行って!」
ワトソン「はーい」
…
マイクは少し新聞から視線をパンケーキに移すと
マイク「あ…これスプーン…まったく…あいつ抜けてんなぁ…スプーンで食えってか…」
マイクは仕方なくスプーンを持ち
ワトソン「はいお待たせ…コーヒーよ…あ…いけない…私ったら…フォークとスプーンを間違えたのね…」
マイク「やっぱり…頼むぜ?ったく」
ワトソン「ごめんなさいね…こういうの、よくやっちゃうの。えへへ…はい…フォーク…」
マイク「どうも…しっかり休めよなー?」
ワトソン「はいはい…あ…スプーンはこの容器にね」
マイク「あぁ」
マイクはコーヒーを飲む
事務所14:21
プルルルル
レオ「もしもし…タリック事務所」
カレン「あら…」
タリックはスーツジャケットを既に着ていて
レオ「タリック事件だ…依頼者はカルガナ…」
タリック「マイク教授の助手?何が…」
レオ「マイク教授が死んだ…」
タリック「教授が……?大事件だ…カレン」
カレン「はいはい…タクシーも呼んでて鍵も持ってる…ダンは必要なら蹴り上げてやる気出させるけど?」
ダン「俺はやる気あるっての…ってか出来る嫁みてぇだなカレン」
カレン「やかましい!!!!」
ダイナー メイソン 午後15:12
タリック「ここか…」
警察バン「あ…タリックさん…」
タリック「あれ…今回は見張りじゃないのか?」
警察バン「へへ…実力を認められて来ました…タリックさんのおかげですよ」
タリック「それは良かった…教授は?」
警察バン「案内します」
タリックは軽く指差し
タリック「それ…言って見たかったろ」
警察バン「正解です」
二人軽く笑いながら中に入る
タリックは入りながら少しづつ笑顔が消えていく
タリック「あぁ…どうやら本当だったのか…」
警察バン「身体から毒物…しかし…このお店の…被害者が食べた物にはなにも…」
タリック「アレルギー反応でもない?」
警察バン「はい…」
タリック「そう…」
タリックは近づき教授の遺体の傍に膝をつく
カレン「ねえ…あれ何してるの?」
レオ「マイク教授はタリックの心理学の先生だった…それに…アンと出会えたのもマイク教授のおかげだ…」
カレン「アン?」
ダン「タリックの恋人だ…もう亡くなってる…事故…ひき逃げでな…」
カレン「そうだったのね…」
タリック「なんとなくわかったよ…」
タリックは立ち上がり
タリック「バン…えっと…おそらく…このパンケーキとコーヒーに毒は?」
警察バン「検出されてませんね…」
タリック「そっか…まぁ…とりあえず言えることは教授には…少し敵が多かったからね…」
警察バン「何をなされてたんです?」
タリック「まぁ…一言で言うと…浮気癖…それ以外は良かったのにね」
警察バン「そうですか…」
タリックは手をパチンと合わせ
タリック「俺はもう行くよ…それじゃ…カレン…ダン…レオ!」
レオ「あぁ…」
ダン「次はどうするか…」
カレン「…」
次の日
事務所8:32
タリックはスーツを着ると寝室のドアを開ける
タリック「わ…カレン…もう来てたの…おはよ」
カレン「まぁね…ねぇ…タリック…少し分かった事があるの…」
タリック「何?」
カレン「マイク教授はこれまでの浮気で何人もの女性をもてあそんできた…そこで一つ大事なことが…マイク教授はあのダイナーのワトソンとも関係があったと」
タリック「ふむ…つまり…ワトソンが怪しい?」
カレン「うーん…問題はここから…マイク教授が飲んだコーヒーは…ワトソンが淹れたものじゃないの…」
タリック「他に誰が?いや…まった…もしかして…昨日君が事務所に遅れて来たのは…聞き込みしてたから?」
カレン「いけないことかしら…」
タリック「ううん…別に…」
カレン「あなたがあの場を早く去ろうとしてたのは理由があるのでしょ?あなたが聞き込みしないなんておかしいもの」
タリック「理由なんて…」
カレン「レオとダンから聞いたわ…アンの事」
タリック「分かった…その話は良いから…ダイナーには他に誰が?」
カレン「……ケイティ・モリアーティ…」
タリック「わお…アーサーの大ファンかな…」
タリックは笑う…が…
タリックの笑顔が少し控えめな気がした
タリック「さて…今はホームズになりきろうかな」
カレン「私はワトソン?」
タリック「ワトソンは被疑者じゃん」
ダイナー メイソン 午前10:57
ワトソン「いらっしゃい…あ…あなた…昨日の…」
カレン「ええ…どうも…こちらはタリック…私の…私のボス…」
タリック「そんなに俺をボスって言いたくない?」
カレン「うるさいわよ…」
タリック「ま…そんなところで…えっと…席は空いてる?」
ワトソン「ええ…あちらに…」
タリック「どうも…」
タリックはすいすいと店の奥に歩いていく
カレンは追いかけながら
カレン「ちょっと…聞き込みなんじゃないの?何で席に行くのよ…」
タリック「少しだけ…ここのコーヒーどんな味かな」
タリックは席に座る…
タリック「お…座り心地いいね…」
カレン「はぁ…」
ワトソンが紙を持ってやって来る
ワトソン「ご注文は?」
タリック「あの…ひとついい?何故昨日あんな事があったのに営業してるの?」
ワトソン「お金がないし稼がなきゃって言ったら許されたの…」
タリック「そう…実は俺達はあなたを容疑者として疑ってます…」
ワトソン「なによそれ!意味が分からないわ!私が関わったのは彼にパンケーキを出した時だけよ…」
タリック「そうですか…でも残念です…あなたにはマイク教授を殺す動機がある…彼の浮気癖に気付いてたんでしょう?」
ワトソンは怒りを抑えるように
ワトソン「…ご注文は…」
タリック「マイク教授と同じものを二つ」
ワトソン「かしこまりました…」
ムスッとして
カレン「ちょ…タリック…何してるのよ…」
タリック「別に?」
カレン「私情を持ち込まないのがルールでしょ?」
タリック「…そうだね…うん…」
キッチンから声が聞こえる…
ワトソン「モリアーティ…あの2人にコーヒー持って行って」
モリアーティ「は…はい…」
少しして不安な顔のモリアーティがコーヒーを持ってくる
モリアーティ「コーヒーはいかがでしょうか…」
タリック「頼まなくてもくるの?」
モリアーティ「え…えっと…」
カレン「いいの…注文する…もらうわ…」
モリアーティ「あ…ありがとうございます…」
モリアーティがコーヒーを注ぐ
タリック「…どうも…」
モリアーティ「いえいえ…」
モリアーティはコーヒーを注ぐとそそくさと行ってしまう
カレンはコーヒーを飲みながら
カレン「悪くないわよ…?」
そしてしばらくすると…
ワトソン「お待たせ…パンケーキよ…二人とも」
タリック「…」
カレン「どうも…すみません」
ワトソン「あら…いいのよ…?」
ワトソンは笑顔を向ける
タリック「失礼…俺のがスプーンだよ?」
ワトソン「あら…いけない…私よくやるのよ…」
タリック「あぁ…そう…ふむ…マイク教授にも同じミスした?」
ワトソン「え?したかもしれないわ…私ったら本当に…」
タリックはワトソンの手を見る
タリック「それに…さっきまでゴム手袋なんてつけてませんでしたよね?」
ワトソン「なーによ…偶然よ…はい…どうぞ…」
ワトソンはフォークを差し出す
タリック「どうもありがとう…」
タリックはそのままちらりとワトソンの方を見てパンケーキを楽しむ
カレン「あなたそんな人だったかしら?」
タリック「なにが…」
カレン「優しさよ…足りてないじゃない…いつもなら笑顔で…」
タリック「結構見てくれてるんだ?」
カレン「…別に?」
タリック「まぁどちらにせよ…犯人には優しくしないよ…」
カレン「ね…まだあの人を疑ってるの?何か理由があるなら偶然よ…」
タリック「そうなら確定させるために協力してほしい」
カレン「はぁ?」
数分後
カレン「もうあなたにはうんざりなの!ワトソンが犯人なんてありえないのよ!」
ダイナーに響く怒号
タリック「ちょ…落ち着いて…」
カレン「もう無理!あなたには付き合ってられない…」
カレンは勢い良く店を出る…
タリック「…証拠があるんだ!あ…行っちゃった…」
ワトソン「あらら…悲しいわね…コーヒーのおかわりはいるかしら?」
タリック「…もらうよ」
タリックの目の前のコップにコーヒーが注がれていく
タリック「ありがとう…えっと…ワトソンさん…少し見てほしいものが…」
ワトソン「何かしら?」
カッ!!!
タリックが指を鳴らすとカードをどこからともなく出す
ワトソン「わ…すごいわね…ふふ…マジシャンかなにか?」
タリックが少しニヤリとし言う
タリック「探偵ですよ…他にも…ほら…」
タリックが手を振るとコインを出す…
ワトソン「あら…どういう仕組みかしら…」
タリック「実は…その…袖に隠してただけ…」
ワトソン「マジシャンってタネを明かしていいの?」
タリック「ええ…明かす人は選びますけど…それに…」
タリックは少し笑い
タリック「“真実”なんて、いくらでも作り変えられる。あなたも、そう思ったでしょう?」
ワトソン「…?…それより…コーヒー冷めるわよ?」
タリック「ええ…そうですね…」
コンコン…窓から音が
ワトソン「何かしら」
タリック「なんでしょうかね…それより…このコーヒー…もらって行きます!」
タリックは立ち上がりコーヒーの入ったカップごと持ち逃げていく
ワトソン「ちょ!待ちなさい!」
バン!
ダイナーの入り口から飛び入ってくる
警察バン「動くな!」
警察バンはワトソンに銃を向ける
ワトソン「っ…」
タリック「ふぅ…時間稼ぎ成功?」
カレン「あなたの奇抜な趣味も役に立つのね…」
タリック「即興で凄いって言われたかったな…」
ワトソン「ね…ちょ…お巡りさん!彼よ!コーヒーカップを持っていこうとしたのよ!?」
タリック「コーヒーカップでそこまで焦るのはないでしょう?あなたはコーヒーに毒を入れた…」
遡って数分前
カレン「作戦ってなによ…」
タリック「簡単…君は二度と戻らないって感じでとにかく起こるんだ」
カレン「はぁ…?恥ずかしいんだけど…」
タリック「お礼は…うーん…後でいうこと聞くよ…お願い…」
カレン「っ…なんでもね?まったく…犯人じゃなきゃただじゃおかないから…」
タリック「分かってる…」
そして今
タリック「あなたはカレンを殺したくはなかった…その証拠に…まずコーヒーに毒を入れなかった…カレンはいま何ともないのが証拠…これはマイク教授でもそうだった…じゃあなぜ毒で死んだのか…」
タリックは続ける
タリック「あなたは接触型の毒をスプーンの持ち手の裏に塗布した…しかし…それはスプーン…本来パンケーキはフォークを使う…つまり…毒の付いたスプーンは間違えたと言いフォークに直せる…自然に証拠を隠滅出来る…」
ワトソン「…」
タリック「しかし…気付いたんです…ワトソンさんは…手袋を付けていた…念のために相手が触らず回収させようとした時のために…それい…あなたフォークを持ってましたね?俺が指摘してすぐ替えられた…あたかも分かっていたかのように…要するに詰めが甘い…」
ワトソン「ふ…ふん…証拠がないわ」
タリック「それがこのコーヒーですよ…このコーヒー…毒入れましたね?だから焦って追いかけた…このコーヒーは検査される…このコーヒーに毒を入れたのもカレンがいなくなったから…ですね…」
ワトソン「…」
タリック「モリアーティ…出てきて」
モリアーティ「は…はい…」
タリック「彼女に協力させられてたね…」
モリアーティ「……はい…」
タリック「ワトソン…君も自白するんだ」
ワトソン「……あの人本当に…」
タリックは食い気味に言う
タリック「愛してる相手が死んで何になるんだ?理解できない…確かに教授は浮気してし間違ってる…だけど…殺すのはもっと間違ってる行動だ」
ワトソン「…連れていって…」
警察バン「はい…11時27分…逮捕します」
タリック「バン…このコーヒーも…」
警察バン「はい…ですね…」
タリック「モリアーティ…助けられなくて申し訳ない…」
モリアーティ「いいんです…決断したのは私ですから…」
モリアーティも一緒に連れていかれる
カレン「解決?」
タリック「あぁ…どうだろ…でも…少なくとも償いを受けさせれるね…」
カレン「ええ…で…タリック」
タリック「ん?」
カレン「言うこと聞くわね?」
タリック「マフィン?」
カレン「本当に…読むのが得意ね…」
タリック「ふふん…じゃ…沢山買いに行こう」
タリックはニヤリと笑い一緒にダイナーを出る…
タリックは、軽口を叩きながら、どこか遠くを見ていた
続く
今回のOPは2話を見てたらさらに面白いかも