5話 スリする者
天才スリ師
ありとあらゆる心理的テクニックを利用し
相手の目を盗み物を盗む
午前10:10 事務所前
外…朝の日差し…少し肌寒い。
レオ「ここを歩いていればいいんだな?」
タリック「ああ、自然にね……絶対振り向くなよ?」
レオ「なんだその不安な一言は」
タリックは大きく五歩後退し、ポケットから何かを取り出す
カレン「はぁ…朝っぱらから犯罪予備軍の片棒担がされるなんて…」
ダン「いいじゃねえか…あいつの見せ物結構面白いしさ」
カレンが睨む
ダン「…い…いや、まあ、パーティーには使えないけどな」
タリック「行くよー」
タリックがレオの前少し右に歩いていく
レオも同じく歩いていく
タリック「っと…」
タリックがハンカチを落とす
レオ「おい…落としたぞ…って…おいおい…ハートでピンクかよ…」
タリック「はは…昨日見つけて買っちゃったんだ」
レオ「変な趣味だな」
タリック「だって、可愛かったから!」
タリックは無邪気な笑顔を見せる
タリック「ってごめん…やり直しでいい?今のハンカチ落としたから失敗」
レオ「そうなのか?なら」
タリック「でもその前に…パン買って休憩しようよ…ほら…」
タリックがヒョイ、と何かをレオに放る
タリックは、あたかも当然のようにレオの財布を放り投げた
レオ「って…俺の財布!? いつの間に!」
タリックはすでに、レオが"ハンカチ"に気を取られた隙に、財布を抜き取っていた
タリックがニヤリと指を鳴らす
タリック「おごり、よろしく」
{~Magician~}
"Magilist"~人の“認知”を操る者。
午後13:08 河原
リズムがよく…それでいて落ち着いている歌声が聞こえてくる
ティファニー「How much of the story~♪」
女性は続けて歌う
ティファニー「have i told you? ♪」
グレイ「いい歌だな…ん…」
こちらのふくよかな男はパンを食べている
オパ「ふー♪」
オパはティファニーの歌に乗って鼻歌を歌っている
ティファニー「I’ll read to~♪」
「you in bed like a book~♪」
歌が終わる
エラ「はぁ~素敵だった…」
ティファニー「えへへ…ありがと」
その時…
ピー!ヒョロロロロ!
トンビがグレイの持っているパンを取っていく
グレイ「あ!僕のパンが!」
オパ「も~何してるのよ…」
グレイ「はぁ…あ…でも…水は無事…」
グレイが笑顔でティファニーに渡す
グレイ「はいティファニー」
ティファニー「ありがと♪」
エラ「なによー優しい」
グレイ「えへへ…」
グッ…
オパ「ん?」
ティファニー「ゲホッゲホッ!」
オパ「ティファニー!?ちょっと!血が!」
ティファニーが血を吐きながら咳をして苦しんでいる
グレイ「そ!そんな!なんで!」
エラ「あの水よ!なにしたの!グレイ!」
グレイ「え…いや…そんな…」
「どうした!?」
警察が駆け寄ってくる
警察「大丈夫か!おい!」
ティファニー「ぁ…ぁ…」
ティファニーは口周りに血を垂らしながら死ぬ…
オパ「噓…」
グレイ「っ!」
事務所13:51
プルルルル!
レオ「はい…警察?不可解?」
タリック「来た!」
カレン「あなた警察…と…不可解、って言葉好きよね…」
タリック「いいね、脳が喜んでる」
カレン「きもいわよ」
ダン「さーて…今日はどんな推理見せてくれるんだ~?」
カレン「なにワクワクしてるのよ」
ダン「ぁ…ごめん」
河原14:23
警察バン「あ…どうぞ」
タリック「やあ…失礼」
タリックが携帯を打ちながらテープをくぐり抜けていく
カレン「誰とメールしてるの?」
タリック「アンナ」
カレン「ダンビーの娘?なんで?」
タリック「あの誘拐の一件から彼女立ち直れないみたいで」
カレン「あなたがセラピスト?」
タリック「だめ?一応自信あるんだけど…それに彼女事件の事とか聞いてくるし…話のタネに困らないしね」
カレン「あら…将来有望ね」
カレンはムスッとしてレオとダンの元へ行ってしまう
タリック「それって皮肉?ふむ…」
タリックもレオとダンの元へ行く
オパ「う…うう…」
レオ「辛かったな…」
タリック「この人達は?」
ダン「被害者の死を目の前で見てた友達…」
タリック「あぁ…そっか…死因は?」
レオ「また毒だと」
タリック「そうか…ふむ…遺体はこれ?」
レオ「あぁ…いくぞ」
レオがブルーシートを上げる
タリック「うわ…酷いな…これは苦しんだ死に方だ…」
ダン「可哀想に…俺たちと同年代だ…」
カレン「誰がこんなことしたのかしら…」
タリック「見て」
タリックが遺体の近くを指さす
タリック「ペットボトル…あれに毒か…」
エラ「それ!グレイが持ってきたのよ!あいつよ!」
警察「落ち着いて…エラさん!」
タリック「グレイって…あぁ…」
タリックがグレイの元へいく
タリックは段差に座っているグレイの隣に座り
タリック「グレイ…平気かい?」
グレイ「まったく…俺の買った水で死ぬなんて…」
タリック「そっか…君はなにも?」
グレイ「なにもしてないですよ!あなたまで疑うんですか!?」
タリック「ごめん…そういう仕事でね…」
グレイ「ッ…」
タリック「大丈夫、誰だって混乱する、……君を責めてるんじゃない」
警察「タリックさん…少し…」
タリック「あぁ…またね」
タリックは立ち上がり警察についていく
警察「実は…我々も丁度パトロールしてて…グレイが水を買ったのを目撃もして…なおかつ…悲鳴が聞こえたので駆け寄り荷物の検査もしたんです…」
タリック「ってことは…自販機か…」
警察「可能性としては…」
タリック「ふぅ…わかった…ありがと…早く回収してあげよう…彼女…えっと…」
警察「ティファニー…?」
タリック「あぁ…そう…誰が伝えに?」
警察「バンという警官が伝えに」
タリック「分かった…」
タリックはカレン達の元へ歩いていく
タリック「ちょっと俺は用事が出来た」
レオ「用事?」
タリック「あぁ…バンが訃報を担当している…少しついて行きたくて…君たちも連れて行きたいけど…多いと…ね?」
カレン「そうね…」
ダン「あぁ…じゃ…またな」
タリック「あぁ…あ…タクシー!」
タリックは移動する
ティファニー家 午後14:42
家前
警察バン「ふぅ…きっと大丈夫…僕なら…」
タリック「やあ…バン…」
警察バン「タリックさん!」
タリック「実は…その…訃報を伝えるんだと思うんだけど…俺たちも解決しなきゃだから…彼らに話を聞きたい…」
警察バン「そうですか…はい…行きましょう…」
ノックする
ハンナ「はーい…」
ガチャリとドアが開く
ハンナ「あら…警察?」
警察バン「はい…実は…その…お伝えしなければならないことが…」
ハンナ「え…?」
マジシャン
~マジリスト~
ティファニー家内
ハンナ「そんな…なんで…あの娘が…」
警察バン「遺体は回収されましたので…」
ハンナ「う…うぅ…」
タリック「娘さんは…みんなから愛されてたみたいですね…」
ハンナ「そうよ…みんなあの娘を愛してた…綺麗で…歌が上手くて…優しかったのに…誰がそんな事を!」
タリック「落ち着いてください…俺たちはそんな怒りを少しでも軽くするために存在します…」
ハンナは一呼吸おき
ハンナ「絶対に捕まえてちょうだい…あの娘が望んでなくても…地獄に落ちるべきよ…」
警察バン「…」
タリック「その通りです…」
タリックもまた一呼吸おき
タリック「ところで…娘さんの声を、聞かせてもらえますか?少しでも、彼女を知っておきたい」
タリックは笑顔を向ける
ハンナ「ええ…ええ…動画があるわ…歌ってる動画」
ハンナは動画をテレビに映し出す
「like a cage~♪」
「You only one~♪」
「I don't need a key~♪」
タリック「…」
タリックは静かに目を伏せた
次の瞬間、記憶の中の歌声が、そっと呼び起こされる
~回想~
「like a cage~♪」
「You only one~♪」
「I don't need a key~♪」
アン「うーん…なんか…チューニングが…」
タリック「今のままでも良かったけどね…?」
アン「うーん…だめ!タリックに歌うんだから!完璧じゃないと!」
タリック「それは完璧主義者の俺への遠回しな悪口?」
アン「違うに決まってるでしょ~…もう…」
タリック「奇抜な趣味って言われるの、慣れてたんだけどな」
アン「違うよ、タリックはカッコいいんだよ?」
タリック「……そっか」
~回想終わり~
「I didn't sing the~♪」
「whole song that day~♪」
「I wonder if it's still time~♪」
「will you~♪」
「listen~♪」
タリック「…」
警察バン「タリックさん?」
タリック「…ぁ…何?」
警察バン「ぼーっとしてたので…」
タリック「ぁあ…平気だよ…チャコスのI'd love to hear it againですね…2:39秒ある歌…全部聞いたことなかったけど…素敵だ…」
ハンナ「そうなの…あの娘…ずっと歌ってた…」
タリック「まだ聴きたい歌だ…」
ハンナ「そうね…本当に…」
ハンナは再び涙を流す
タリック「その…それでは…俺達はこれで…」
ハンナ「ええ…ごめんなさいね…う…」
タリック「……また、歌を聴かせてください」
ハンナ「……ええ」
静かに扉を閉め…ティファニーの家を出る
警察バン「辛いですね…」
タリック「大事な人を失ったら…ね」
事務所 午後16:32
ガチャリとドアが開く
タリック「戻ったよ」
カレン「あら…お帰り…どうだった?」
タリック「やっぱりこれはまだ慣れないな」
カレン「それでいいのよ…犯人の情報は?」
タリック「なにも…」
カレン「そう…」
レオ「こっちは自販機に毒を含んだ飲み物を仕込むって前例を探してる…」
タリック「それなんだけど…もう一回現場に行きたくて…明日ね」
ダン「何かわかりそうなのか?」
タリック「まあね」
次の日 午後12:21
河原
ピー!ヒョロロロロ!
ダン「トンビの声聴くと…西部劇の中の気分だ…」
タリック「あれはハゲタカだけどね…ダン…これ持って」
ダン「?おう…」
ダンにサンドイッチを持たせる
レオ「何する気だ?」
タリックが軽く咳をし
タリック「さてと…今からダンを驚かせるマジックをする…そのダンの持っているサンドイッチを消して見せるんだ…」
カレンが軽く笑い
カレン「ふふ…今回のは面白そうじゃない…」
タリック「この手を見てて…俺が指示したら…手を挙げるんだ…それを持ちながら…」
ダン「あぁ…」
タリック「3…2…1…はい!バンザイ!」
ダン「はい!」
ダンが手を挙げる
その瞬間!
ピー!ヒョロロロロ!
トンビがサンドイッチを盗っていく!
レオ「あ…」
カレン「あら…」
ダン「あ!おい!」
タリック「ははっ!マジック成功…」
カレン「今のがマジック?」
タリック「あぁ…まあね…さて…解散」
カレン「は?」
レオ「俺達を連れておいてか?」
タリック「うん…用事できちゃった…もしかしたら何時間も帰れないかも」
レオ「一体何しに行くんだよ」
タリック「じゃっ…」
ダン「あ…行っちゃった」
カレン「もう好きにさせなさいよ」
レオ「あぁ…はぁ」
ダン「じゃピクニックする?」
ピー!ヒョロロロロ!
カレン「ここじゃお断り」
レオ「同意見だ」
午後13:01 警察署
タリック「あ…いた…どうも…ハンナさん…」
ハンナ「あ…例の」
タリック「あの…警察署にいるって事は…」
ハンナ「ええ…実はティファニーのネックレスがなくて…あの娘の大事な形見なのに」
タリック「やっぱり…」
ハンナ「え?」
タリック「なんでも…ハンナさん…きっと取り戻して見せますから…安心してください…」
ハンナ「い…いいのかしら」
タリック「はい…あ…おい…バン…一緒に来てくれ…あとパトカーに脚立積んで!」
警察バン「あ…え…はい…」
タリック「それじゃ…これで…」
タリックはハンナに別れを言い出ていく
外 動いているパトカー車内 13:40
タリック「うーん…ここら辺だ…」
タリックは携帯を持ちながら
警察バン「さっきから何を見てるんですか?」
タリック「GPS…多分…ここだ…」
タリックはパトカーから出て辺りを見る
タリック「あった…今は留守か…」
警察バン「あれ?あれって…」
タリック「トンビの巣だよ」
警察バン「は…はぁ…」
タリック「脚立出して」
警察バン「はい…よいしょ…」
タリック「そこ…あ…もう少し左…よし…」
警察バン「気をつけてくださいね?」
タリック「勿論~」
脚立を登り木も登る…
トンビの巣には雛がいる
タリック「わーごめんね…小さい子たち…こんなに食べ残しちゃって悪い子だ…」
巣にはきらりと光るネックレスと…
タリック「俺のGPS…それに…」
小瓶
タリック「ビンゴ…ねえバン!手袋貸して!」
警察バン「えぇ…は…はい…」
バンが木の上にいるタリックに手袋を投げる
ぱちんと手袋をはめると小瓶を手に取り
タリック「バン…見つけたよ…」
警察バン「これは?」
タリック「殺害の証拠…次に…向かってほしいところがある」
タリックは袋に証拠を入れ
警察バン「わ…わかりました」
バンはタリックと車に乗り込み向かう
向かう先は…グレイの家
マジシャン
~マジリスト~
グレイ家14:23
タリック「さてと…おっと…グレイ…そんな脚立持ってどこ行くんだ?」
グレイ「警察?なんで?あ…もしかして犯人が捕まったんですか?」
タリック「その通り…来てほしい…」
グレイ「……はい!」
タリック「バン…」
警察バン「ええ…」
グレイを乗せて河原に連れていく
河原 午後14:34
タリック「さてと…まず見せたいものがある…」
グレイ「何ですか?」
タリック「これ…」
タリックはティファニーのネックレスを見せる
グレイ「それ…ティファニーがつけてた…」
タリック「その通り…これを…」
タリックは何やらクロワッサンを取り出し
クロワッサンにネックレスを詰める…
ふりをする
グレイ「ちょっ!何してるんですか!」
タリック「さて…あ…あのトンビ…見たことないな…遠くから来たのかなぁ…うーん…」
タリックはそう言いながらクロワッサンを前の方に上げていく
グレイ「ちょ!それは!」
ピー!ヒョロロロロ!
トンビが取っていく
タリック「あらら…」
グレイ「何してるんですか!彼女のネックレスを!」
タリック「遺体には既にネックレスがなかった…それはなぜか…ティファニーはギターを弾くときネックレスを外す…」
警察バン「あ!」
ハンナの家で動画を見た時…座ってる椅子近くにネックレス置いていた!
タリック「たまにそういうのはあるんだ…彼女は特にそうみたい…ギターを弾くときに首に何か掛かってると集中ができないのかな…で…それを知っているのはおそらく君と君の仲間だけ…」
グレイ「だからなんですか!オパだって!エラだって怪しいじゃないか!」
タリック「君は水を渡したね?警官のパトロールにも気付いていた…そこで自販機で水を買い…毒を入れた…買ってるときはおそらく見られてたんだろうけど毒なんて見られてないときに入れやすい」
タリックは続けて言う
タリック「そしてティファニーに水を渡すときは開けて渡してあげることであたかも開けてあったよ思いやすい…ふむ…賢いね…」
グレイ「な…何を…別に証拠がない…」
タリック「あるさ…バン…」
警察バン「はい…!」
バンが袋に入った小瓶を見せる
グレイ「っ!」
タリック「君の作戦は…パンにネックレスと…この小瓶を仕込み…トンビに取らせる…トンビの巣の場所は特定済み…後で回収…で…そこでトンビに取らせることにより証拠はない…警官がパトロールしてる事も計算済み…わざと荷物チェックをさせたら白確定になる…と…」
グレイ「…ティファニーは…綺麗だった…どうしようもなく独占欲が湧いて…それで!遂には…殺せばいいって…思ったんだ…はは…ネックレスも…僕だけが持ってるなら…本当にティファニーは僕のもの…」
グレイは言う
グレイ「死んでる顔も…綺麗だったなぁ…」
タリック「君は…ティファニーが亡くなった後も…愛されないクズだ…」
ネックレスを見せる
タリック「これは…彼女を大事にしてたあの奥さんに返す…そして君は…もう誰にも見られない」
グレイ「っ…ふ…う…か…返せ…僕の…」
タリック「君にはブレスレットが贈られるよ…」
警察バン「はい…14時48分逮捕です」
グレイには手錠がかけられる
タリック「…」
タリックはネックレスを眺める
次の日…午前10:21 ティファニー 葬式
ハンナ「本当に…こんなに集まって…私…私…」
デイブ「ハンナ…う…俺の娘が…俺の知らないうちに…亡くなるなんて」
オパ「うぅ…ティファニー…」
エラ「本当に…うぅ…」
少し離れて見ているタリック達
ダン「旦那さん…気の毒だな…転勤先から飛んで戻って見るのは娘の遺体ってのは…」
カレン「ええ…向こうで伝えられた時の気持ちは本当に…辛いでしょうね…」
レオ「タリック…大丈夫か」
タリック「ああ…でも…捕まえた…少しでも…気持ちが軽くなってくれればな…」
タリックは一呼吸おき
タリック「俺先行くよ…」
カレン「どこに?」
タリック「ふふん…事務所…」
ダン「あぁ…えっと…気をつけてな」
タリック「あぁ」
タリックは行ってしまう
カレン「…」
事務所 午前11:03
タリックはデスクに座り
カチカチ…
パソコンで何かを再生する
14秒の短い動画…
タリックはそっと目を閉じてそれを聴く
アン「like a cage~♪」
「You only one~♪」
「I don't need a key~♪」
続く