一騎打ち
「うわ、カワイイ!バンビみたいじゃん!」
「小柄だし、栗毛っていうのかな?茶色だからイメージはあるかも、ですね。減ってた体重も戻って調子よさそう」
ミホちゃん、まんざらでもなさそうだ
「ゲートはだいじょうぶなの?」
ユウキが話しかけてきた
大人が中学生に聞くな
「素直な馬ですから。1番枠だから先入れですけどがまんできると思います」
ゲートは奇数番の馬が先に入り、偶数番が後から入る決まりである
奇数番は狭いゲートの中で待たされる立場なのだ
「最内枠だから出遅れは禁物ですね。1200メートルしかないから最内で立ち遅れたら、内側に包み込まれたまま何もできずに終わってしまう」
冷静な男が解説してくれたが
不吉なこと言うな
「ケイオウワールドは?」
「あの黒い馬ですけど」
ミホちゃんが指差す
「うわ、でっかいなあ。それにすごい筋肉。ホントにメスなのかしら」
「人間の陸上と同じで、短距離得意な馬はガタイがいいっていいますよね」
ユウキが割り込んで来た
筋肉の話なら自信ありそうだ
「でも、5番だから先入れだね」
「実力馬だから、枠は関係ないんじゃないかなあ」
ミホちゃん、弱気になるなよ
「ケイオウに何かあるとしたらジョッキーですかね。外国人騎手だから上手いんですけど、日本人とあまり話さないだろうから、ミホノソヨカゼのことはあまり知らないんじゃないかなあ」
冷静な男はミホソヨカゼからけっこう買ってんのかな?
スタート地点は向こう正面
ゲート入りは順調
ミホノソヨカゼは最内だから我々のいる正面スタンドから様子が見える
おとなしく待てているようだ
ファンファーレ
スターターが赤旗を持って歩いて行く
歓声が沸く
赤旗が振られ
スタート!
出遅れはない
ミホノソヨカゼは?
最内からスッとハナに立った
「速いじゃん」
「スタートは得意ですから」
女神様とミホちゃん
早くも身を乗り出している
せりかけて行く馬はいないようだ
他の馬もそれぞれのポジションを取りに行く
ケイオウワールドは中団内め
前も後ろも見れる位置だ
首を上げている馬がいる
騎手が手綱を絞って抑えつけようとしているようだが
「行きたがっている馬もいますね。ペース遅いのかな?』
ユウキが言うと
「スローなら後ろの馬は届きませんから。4コーナーゆっくり回って直線の瞬発力勝負になれば勝ち目あると思うんですけど」
ミホちゃんが答える
第三コーナー
各馬じっと動かないが
4コーナー手前
ミホの手綱が動き出した
「もう追い出したよ?早くない?」
「いや、他馬はたぶんケイオウマークだろう。ケイオウを負かせば勝ち、というプランじゃないの?」
「ミホソヨカゼの逃げはこわくないってこと?失礼しちゃうわね」
「でも、それだけに、他が油断してる間にセーフティリードつけちゃえば、そのまま逃げ込めるかもしれませんよ」
「なるほど。それで早く動いたの?」
ミホちゃんも夢中だ
目に期待が宿っている
他馬の手綱が動き出したが
ケイオウワールドは馬なりで上がっていく
モノが違う感じだ
「ああ、抜かれちゃう」
直線に入りケイオウがミホの外から交わしにかかった
ミホを軽く交わしてあとは後続の追い込みを抑えれば楽勝
外国人騎手の読みはそんなところだろう
しかし
?
「まだ抜かれてないぞ」
ミホは追い通し
外国人騎手は余裕で交わすはずだったのだろうが
なかなか抜けない
「すげえ、ミホ、負けんな!」
粘りに粘るミホ
なんだこの馬?
という感じで外国人騎手が追い出した
明らかにあわてている
こんなはずでは と
全身が語っている
「ミホ、がんばれ!」
まだ抜かれない
ケイオウ、負けるのか?場内が騒然としている
外国人騎手が顔色を変えて追いまくる
まだ抜けない
いや、鼻面がそろった?
「ああ、ミホちゃん、がんばれ!もうちょっとだ!」
「ソヨカゼ!」
たまらずミホちゃんも黄色い声をとばす
交わそうとするケイオウ
ミホが差し返す!
首の上げ下げでゴールになった