Aito//: 生々しい記憶達
ソフィーさんが見せたいものがあると手招きする。
そうやって見せられたのは、机上で無造作に広げられた数多くのメモ帳達だった。
「…これは、、」
「さぁ。でも私が読める文字ではないの。ならば記者の貴方ならば分かるかもしれない、と。」
「記者イコール情報屋では無いのですが、、、」
…でも、確かにこの字はとても見覚えがある。
懐かしい母国の、日の本の文字だ。
【 ×月×日
もう私に残された選択肢は逃げるのみ。こんなことなら海外に渡らず国に残れば良かった。】
【×月◯日
命からがらシェルターに入れてもらった。この国の人達も、本当は良い方々なのかもしれない。】
【△月×日
どうやら母国では、私は死んだことになっているらしい。それではもう、戻ってくるなと言っているようではないか。海外に行けと言ったのは御国なのに。】
【△月△日
国は水爆を落とされ壊滅状態のようだ。
もう母国に愛想を尽かした私には、何の関係も無い事であるが。】
日記のようだった。
最後の頁は、ページが破れるほどの、憎しみの込められた強い筆圧で書かれていた。
【もう国など要らない】
と。
「…どうです?何が描いてあるのですか?」
「他愛も無い、楽しそうな日々を綴っただけの日記のようです。少なくとも、私のものでは無いですね。」
否、私のものであろう。
先の戦争に、国が敗れたことを、私の言葉で、私の気持ちを最大限に出して、私なりに書いたのだ。
…しかしこれは、他人においそれと見せる物では無かろう。プライベートだ。
「そうだったのですね。やけに筆圧が強いな、と思ったのは気のせいですかね」
「いいや、やはりこの手記の持ち主もストレスを抱えていたのでしょう。誰しもがなり得る心境でしょう?」
「ええ、そう言われると、そうね。」
「…そうだ、これらの手記は私が預からせてください。何か、まだ重要なことが書かれていそうなので…」
「わかったわ。私はまた別のものを探しておきますね」
ソフィーはそう言うと、部屋をするりと出て行った。
「ああ、どうしてまたこんな。」
思い出したくないであろう記憶であった。
私は、この手記に、これらの記憶を刻んで忘れてしまったのだろう。
見てもピンと来ないのだ。私は日の本の、どこにいたのだろう。この手記達を見ればわかるだろうか。
忘れてしまったからには、きっと思い出さなくてはならないのだ。
ふと、1番ボロボロになった皮の表紙の手帳が目に入る。光沢こそ失われて、なんの輝きも感じないが、なぜか、惹かれるのだ。(ただの気のせいかもしれないが)
…これは、見てはいけない。
「持っているためだけ」の、手記だ。
そう言う気がする。なぜかはわからないが。
いや、記憶を思い出したいならそれこそ見ろ、と言う話だが。
とりあえず、他の手記も見てみることにするか。