Prologue
ようやく話の構想が固まり、ようやく世に出すことができます。
どうしても更新は遅くなるかも知れませんが…どうか「彼ら」の顛末を、「彼ら」の最期まで見てくださると光栄でございます…。
11/8 をわり
暗雲立ち込めた最中、ぽつんと建つその建物は。
限りなく黒く、そして白く、はたまた紅く染まってゆく。
ひとつとして同じ形を作らず、それを見たものは一人としてその存在を覚えることができない__。
――――――
ああ、どうも体が重たい。
私はなにか、別の世界に来てしまったのだろうか。窓越しに見える静かに降り続ける雨は黒く、全てを飲みこんでしまいそうだった。
そして、目覚めた時から薄々気付いていたが、ようやく確信した。
…私の、私という、すべての記憶がごっそりなくなっている。
なにも、わからない。
分かることは…、私が「ソフィ」という人であることのみだった。
狭くも広くも無い部屋を見回す。
さっき私が目覚めたベッドの布団類は、きっちりと畳まれている。私が無意識に畳んだからだ。
小さな鏡台に、「diary」と金文字で書かれた本が置いてあった。書いていることはいたって普通の日記のようだった。ただ、最初の2、3ページは丁寧な読み易い字で書かれているが、少しずつ字が雑になっている。ページの最後の方はもう、別の世界の文字になってしまっているのだ。
「お客様、お目覚めでございますか?」
…振り向くと、きっちりとしたスーツを身に纏った男性が立っていた。音もなく部屋に入ってきた訳なのだろうが、それと相反した口調の柔らかさ、手足の隅々まで柔らかく、しなやかに、見る者を魅了するような、そんな印象抱かせる動きだった。
「…あなたは、誰かしら?」
「私、この建物…「pension recall」の支配人でございます…。」
深々とお辞儀をし、そしてそれはゆっくりと顔を上げて私の方へと顔を向ける。
彼には、顔がなかった。
正確にはは、モヤがかかって見えないという方がいいだろう。ただ、本当に、顔だけが何も見えないのだ。表情も、瞳の色も、肌さえも。
どうも不気味に見えるはずなのに、彼のその動作1つひとつを取って見たとして、悪人とは言うことができないだろう。
「ソフィー様、皆々様方がお待ちでございます。」
そう言って彼は、私の手をふわりと握る。手を引かれるがままに、この部屋を後にするのだった。
「ようこそ、pension recall へ。」