数年前の記憶
そこは、冷たい街中であった。
夜であるというのに、あらゆる所から光が漏れ、大通りの方はまだまだ人が多い。雨の中であるというのに、もう夜中の二時であるというのに、未だに活気がある。
酒を飲み、酔っている者。女と下品で、しかし楽しそうにしている者。また、少し路地を見れば、見たくないものまで広がっている。
そんな街中の、小さな道。
何もなく、誰も通ろうと思わない。そんな街中で。
一人の男の子が、倒れていた。
ここは……どこだ?
意識が……はっきりしない。
記憶が、曖昧だ。
俺は、だれ…なん……だ。
男の子は理解していた。ここで意識を保たねば、このまま眠ってしまい、一生起きることはないだろう、と。しかし、彼には執着するものがなかった。
この世に生きる者は、目的を持っていたり、守りたいものがあったり、何か生きる理由があり、だからこそ誰も死にたくなどないのだ。
しかし、この子供には、それさえもなかった。
幸せというモノも、知らずに生きてきたこの少年は、ひっそりと……人知れず死にそうになっていた。
その時だった。
「あら、まさかと思ったら……」
そこに、一人の少女が現れる。
赤いレインコートを雨から身を守っている。というより、隠していると言った方が正しいかもしれない。何か、正体を知られたくないような、そんな雰囲気を匂わせている。
「……助ける義理はない。けれど、さすがに子供の姿しているんだもの。ここで放っておくのは、目覚めが悪いってやつだわ」
そうして、何も知らないその子供に手を差し伸べる。
そうして、子供の命は助かった。
しかし、ここからこの男の子の未来が、過酷なものになるとは誰も予想していなかった。