表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/77

幕間(承前)

「抜きにゆく必要がないなら話を続けるが、いいか?」


 管理人は真顔で問う。

 その言い方どうにかならんのかとスイは思うが、ツッコむのも虚しいのでうなずき、ペットボトルの緑茶をもう少し、飲んだ。


「検査結果が突出していたのは1-5の九条マドカだが、もう一人。彼ほどではないが、それに近い数値を叩き出した女の子がいる。3-1Aコース選択の、安住サチエだ」


「アズミ?」


 スイは眉根を寄せる。どこかで聞いたことがある名だと思った一瞬後、ああ『理数同好会』の会長かと思い出す。



 潜入時、潜入先で関わり合いを持つ人間の情報は、管理人からデータとして直接脳へ届けられる。

 しかし植え付けられたデータは万全ではなく、本人を目の前にすればすらっと情報は出てくるが、名前だけではあやふやになることが多い。

 スイは再び、ペットボトルの緑茶を口に含む。

 『ペットボトルの緑茶』という形に整えた、脳のオーバーヒートを抑える薬剤である。


 管理人の目が、スイが気付かない程度に曇る。

 最近、スイの薬剤摂取量が増えてきている。

 彼の心身への負担がすでに限界に近いことは、管理人も嫌というほど理解していた。

 今回相棒(バディ)を組めなければ、おそらくスイは壊れるだろう。

 管理者としての『大義』の次ではあるが、スイの悲願を達成させてやりたいという目的も、彼女にとっては重要な使命だ。

 使命を達成する前に、彼を潰してしまってはならない。



「Aコースといえば特進理数コースだよな。あれ? でも彼女……」


 管理人はうなずく。


「ああ。卒業後は就職の進路希望を出している。彼女は入学以来、成績優秀者に名を連ねているから、学校側では進学を強く促しているそうなのだが。家庭の事情だと言われれば、それ以上強制できないからな。ただ本人は、高校生の間は出来る限り学びたいと言って、国公立大を受験する者たちと同等の授業を選択しているそうだ」


「……進学、したいんじゃないか? 彼女の本音としては」


 スイは眉間を強くもみ、言った。

 なんだか鈍い頭痛がしてきた。


(アズミ……サチエ。特進理数コース、か)


 ()()とは違う。

 似ているが、違う。違う。

 あの子はすでにいない、もういないのだから……。


「スイ!」


 強く呼びかけられ、彼はハッとする。

 やや震える手で彼は、残ったペットボトルの緑茶を飲み干した。


「くそっ」


 ため息を吐き、誰にともなく彼は罵る。


「なんで……()()()()()()()()()()()()()()()んだ?」


「偶然だ。少なくとも六割強の確率で。だが……」


 珍しく管理人は口ごもる。


「偶然ではない、確率も四割弱。低いとは言い切れない」


「どういうことだ?」


 眉をひそめるスイへ、管理人は表情を改める。


「アチラさんの、手の込んだ攻撃なのかもしれないということだ。彼女の【ゆらぎ】に対しての聡さは、並をはるかに超えている。アチラが……すでに手駒にしている可能性が、排除できない」


「……なるほどね」


 呟くとスイは、ソファから身を起こして凄絶に笑んだ。


「念のため、私の方から彼女にタグを付けておいた。……気を付けろよ」


「承知致しました、管理者殿(マスター)


 スイが恭しく答えると、彼女はあからさまに顔をしかめた。


「取ってつけた尊敬表現は不快だ。よせ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 辛い過去がありそう( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ