【いれいさー】のおけいこ・ふちのやまい編
このエピソードは、マドカがひととおりの基礎を身に付け、実践形式の訓練が増えてきた頃の話である。
「……浄化の光をコンスタンスに出す、もしくは力を強化する場合。慣れないうちは、きっかけになる言葉を自分で設定し、心でつぶやくのもひとつの手だ」
スイ先生はのたまう。
「君の場合。例えば……『白銀の円盤よ、万難を排する鉄壁の盾となれ!』とか」
「はいい?」
マドカが怪訝な顔をすると、スイは
「気に入らない? いやまあ、これはあくまで例だから。横文字系の方が好みならそれでもいいよ。えーと……、『Deploy around me! My Silver Circle Shield!』とか?……いや、これはあまりカッコ良くないかな? 英語としてたどたどしいだろうし」
「あーなるほど。先生……、患ってますね?」
『患っている』という言葉に、スイはポカンとした。
「……は? あー…まあ確かに俺は、色々と患ってる自覚はあるけど? 控えめに言ってもジャンキーだし、胸を張って精神が健康だとは言えんしなァ」
と、勝手に納得する。
「ああいえ。そういうシリアス系のビョーキじゃなくて。俗にいう、厨二病ですねってことで……」
「チューニビョー?」
「ご存じないならいいです、別に深い意味はないですから。どうしてもってなら、ググってみて下さい」
《インターバル後》
「九条君。さっきの『チューニビョー』ってのをググってみたんだけど……」
「え? 調べたんですか?(真面目か! ……ってか、【home】の中にいてもググれるんだ!)」
「中学二年生頃の思春期に見られる言動、転じて、思春期にありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好などを揶揄した……云々、とあったんだが。具体例として『俺の右手が疼く』とか、『わが闇の眷属たちよ、鎮まれ』とか、イタイことを口走るらしいな?」
「あ……はは。まあ、間違ってませんが。ちょっとソース偏ってません?」
「けっこう面白いじゃないか。なんか、気分が上がるっていうか」
「……え?」
「さっそく今日の訓練に取り入れてみよう。さあ……、わが闇の眷属たちよ。召喚に応じ、現れ出でよ!」
スイの周りに闇の眷属……のつもりの、四面体の【dark】が現れる。
「先生~、それは先生の(ため込んできた)【dark】でしょうが!」
「ふふふふ。さあ、行け、凶悪なるわが眷属たち。行って、【eraser】・エンの命を刈り取るがいい!」
「だー! もう! やめて下さいよ~!」
コツコツとぶち当たってくる闇?の四面体を退けながら、マドカは文句を言う。
「大体、先生はどっちかと言えば【dark】を刈り取る側でしょ?【eraser】なんだから!」
「悪役の方が面白い」
「あ、駄目だこのヒト……」
諦めの表情になった一瞬後、マドカは腹を括ったらしい。
「えーいもう!……白銀の円盤よ、万難を排する鉄壁の盾となれ!」
叫んだ瞬間、今までになく『白銀の円盤』は強く輝いた。
「お、いいね。……さあ、遠慮なく行け! 可愛いわが眷属たちよ! 行って屠り尽くすのだ!」
「すべての闇を消し去るまで、俺は浄化を止めない!」
キョウコさんこと【管理者・ゼロ】は、少し離れたところでそれを見ながら、ボソッとこう呟いた。
「何やっとるんだ、この二人は。まったく男の子というヤツは……」
解せぬ。