表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/77

7 やがてキュウになる⑬

 長く、彼女は黙っていた。

 かなりの時間、長く長く。


 どのくらい経ったのか。

 ふふふっ、と、彼女は笑った。

 なんとなく脱力したような笑声だった。


「……男の人って」


 真面目な顔でこちらを見つめる、救いようのない莫迦である二人の男たちの顔をそれぞれ見返し、彼女は疲れたように呟く。


「どうしてこんな……、ふふふ。もう、いい」


 怪訝な顔をする男たちへ、彼女はちょっと困ったような、見ようによっては可愛らしい笑みをほんのりと浮かべ……、ふっと、空気に溶けるようにいなくなった。



「さっちゃん!」

「さっちゃん先輩!」



 あわてて名を呼ぶ男たちに、彼女が答えることはなかった……永遠に。




 設定された戦場エリア(バトルフィールド)内いっぱいに膨張した【Darkness】の活動が弱まり……徐々に徐々に、縮んでゆく。

 狂ったようにスパークしていた浄化の光が、徐々に徐々に柔らかくなってゆき……いつしかそれは、闇の塊を包み込む光の球体となっていた。

 そして、まるで大切な宝物を包むように光は、穏やかに輝き続け……夜明けの空のような清浄な光が辺りに満ちる頃。


 茜色がにじむ狂気の薄闇は、もう、どこにも存在していなかった。



戦場エリア(バトルフィールド)、解除。【eraser】は……【home】……原点(ゼロ)、地点へ、【転移】』


 茫然としている男たちの脳へ、心なしか苦し気な【管理者・ゼロ】の声が響いてきた。



 ハッと気づくと、マドカは【home】の庭にいた。

 すぐそばに、珍しくがっくり座り込んでいるキョウコさんこと【管理者・ゼロ】。

 そして。

 少し離れた位置にこちらへ足を向ける形で仰向けに、芝生の上で長々と延びている男。


「せんせい……」


 身体がものすごく重だるく、節々が痛くてたまらない。

 一歩踏み出そうとした途端、足がもつれて倒れてしまった。

 それでもマドカは這うようにして、師匠であり相棒である彼の無事を確かめにゆく。


「……え?」


 そこに倒れていたのは。

 白の多い胡麻塩頭の、目許口許に深いしわの刻まれた、もはや六十にはなっていそうな老いた男。

 静かにまぶたを閉ざしてはいるが、呼吸につれて胸が上下しているのがわかるので、その部分だけはマドカはホッとした。


「やれやれ……ヒトの器だけは、何とかリカバーできたか。まったくお前たちは……無茶を、する」


 不意に、どこかひび割れた雰囲気のキョウコさんの声がした。

 次の瞬間。

 ビシリ、とでもいう重みのある音がして、『キョウコさん』の身体は粉々に砕けてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] キョ、キョウコさあああん!!!!(ブワッ)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ