7 やがてキュウになる⑬
長く、彼女は黙っていた。
かなりの時間、長く長く。
どのくらい経ったのか。
ふふふっ、と、彼女は笑った。
なんとなく脱力したような笑声だった。
「……男の人って」
真面目な顔でこちらを見つめる、救いようのない莫迦である二人の男たちの顔をそれぞれ見返し、彼女は疲れたように呟く。
「どうしてこんな……、ふふふ。もう、いい」
怪訝な顔をする男たちへ、彼女はちょっと困ったような、見ようによっては可愛らしい笑みをほんのりと浮かべ……、ふっと、空気に溶けるようにいなくなった。
「さっちゃん!」
「さっちゃん先輩!」
あわてて名を呼ぶ男たちに、彼女が答えることはなかった……永遠に。
設定された戦場エリア内いっぱいに膨張した【Darkness】の活動が弱まり……徐々に徐々に、縮んでゆく。
狂ったようにスパークしていた浄化の光が、徐々に徐々に柔らかくなってゆき……いつしかそれは、闇の塊を包み込む光の球体となっていた。
そして、まるで大切な宝物を包むように光は、穏やかに輝き続け……夜明けの空のような清浄な光が辺りに満ちる頃。
茜色がにじむ狂気の薄闇は、もう、どこにも存在していなかった。
『戦場エリア、解除。【eraser】は……【home】……原点、地点へ、【転移】』
茫然としている男たちの脳へ、心なしか苦し気な【管理者・ゼロ】の声が響いてきた。
ハッと気づくと、マドカは【home】の庭にいた。
すぐそばに、珍しくがっくり座り込んでいるキョウコさんこと【管理者・ゼロ】。
そして。
少し離れた位置にこちらへ足を向ける形で仰向けに、芝生の上で長々と延びている男。
「せんせい……」
身体がものすごく重だるく、節々が痛くてたまらない。
一歩踏み出そうとした途端、足がもつれて倒れてしまった。
それでもマドカは這うようにして、師匠であり相棒である彼の無事を確かめにゆく。
「……え?」
そこに倒れていたのは。
白の多い胡麻塩頭の、目許口許に深いしわの刻まれた、もはや六十にはなっていそうな老いた男。
静かにまぶたを閉ざしてはいるが、呼吸につれて胸が上下しているのがわかるので、その部分だけはマドカはホッとした。
「やれやれ……人の器だけは、何とかリカバーできたか。まったくお前たちは……無茶を、する」
不意に、どこかひび割れた雰囲気のキョウコさんの声がした。
次の瞬間。
ビシリ、とでもいう重みのある音がして、『キョウコさん』の身体は粉々に砕けてしまった。