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7 やがてキュウになる①

「げ、どうした九条。なんで眼鏡なんかかけてんの?」


 教室で及川と会った途端、開口一番にそう言われた。

 げ、ってなんだよと小声で文句を言った後、マドカは、


「しょうがないだろ。俺、ちょっと特殊な遠視らしいし。この眼鏡は治療の意味があるからかけなきゃいけないんだってよ。あー、うぜえ」


 言いつつ、ちょっと眼鏡を外す。

 正直、中学時代から知ってる人間に眼鏡の顔を見られるのはなんとなく照れくさい。


(……うげ)


 軽い眩暈の後、【dark】らしい淡い影が教室中を揺曳しているのがマドカには『見える』。

 反射的に身体から浄化の光が出そうになるが、抑える。


現実(リアル)では【dark】が普通に、どこにでも存在する。大部分は放っておいても害はない。だが君は【eraser】の性として、【dark】が見えると消したくなるだろう。しかし見える【dark】すべてに反応していたら君の体力・気力が保たない。この眼鏡は、余分な【dark】を視界からカットするよう設定されている』


 キョウコさんの言葉だ。


(あーなるほど。こりゃキツい)


 自宅ではさほど感じなかったが、町へ出るとこの世は【dark】だらけなのがよくわかる。


(……んん?)


「及川。ちょっと後ろを向けよ」


「はん?」


 怪訝そうな顔をしながらも、及川はマドカへ背中を向ける。

 マドカは素早く、てのひらに隠れるほどの大きさの弱い円陣を発生させ、及川の背中を叩く。


「何? なんか付いてた?」


「ああ。ちょっとな。もうとれた」


 少々質の悪そうな【dark】が、及川の背中に張り付いていたのだ。

 放っておいてもかまわなさそうではあったが、もし肥大化すると厄介な感じがした。


「…そっか。サンキュ」


 及川は、なんだか腑に落ちていなさそうだった(何故背中についてるゴミが正面にいるマドカにわかったのか、ぼんやり疑問に思ったのだろう)が、一応、礼を言ってくれた。



 学校生活はこれまでとあまり変わらない。

 宇田先生が再び担任として教壇に立ち……何故かマドカは、『宇田×九条』として薄い本を書かれそうなっている。


(ちょっと待て。男の俺がナンデ掛け算の右に来る!)


 腹が立ったが、次の話を聞いてしぶしぶ納得した。

 中間テスト後に熱中症で倒れたマドカを、宇田先生が火事場の馬鹿力的な腕力を発揮して、『お姫様抱っこ』で保健室へ連れて行った、らしいのだ。


「あれ以来、宇田先生(さん)の女子人気がうなぎのぼりでさ~。裏で『タマキ王子』なんて呼ばれているそうだし」


 及川談。


 ……まあ、確かに。

 宇田先生は元々、女性にしては背が高くがっしりしているし、最近(マドカが知っている限り、アチラで休んで帰ってきて以来)マニッシュな感じに美人度が上がっている。

 『化粧っ気がない』のではなく『きれいな素肌をさらしている』感じでもある。

 今まで猫背っぽいもそっとしていた立ち居振る舞いだったのが、きびきびした動きに変わった気もする。

 王子呼びもわからなくない。

 ……でもな。

 だからって男の俺が『受』なのは、おかしいだろうが!


 マドカとしてはそう主張したいが、誰も受け入れてくれなさそうなので、歯噛みをするしかなかった。



 理数同好会の活動はしばらく休む旨を、顧問である宇田先生から届出用紙をもらい(貴腐人方にキャーッと言われたくないので、昼休みにこそっと職員室へ行き、こそっともらった)、3-1のユキちゃん先輩に提出。

 先生にも先輩にも心配され、やや心が痛んだが、これはもうどうしようもない。しばらくは治療?優先で過ごさせてもらう。



 学校が終わるとマドカは速攻で帰宅し、食べ終わった弁当箱を流し台に出して水に浸け、自室へ入る。

 制服からTシャツにジーンズという服装に着替え、玄関でスニーカーを履くとスマホを取り上げる。

 そして『4/3πr³』のチャームへ、


「【home】へ帰還」


 と囁いた。



 瞬間的な眩暈の後、彼は、馴染みの芝生の庭に立っていた。


「おかえり、九条君。……【eraser】・エン」


 玄関先にはキョウコさんが立っていた。


「ただいま、戻りました」


 ここが自分の帰る場所。

 学校よりも自宅よりも、本当の意味で寛げる場所。

 そう、なってしまった。

 嬉しいような寂しいような、どことなくやるせないような気分を隠し、マドカは深く、彼女へ頭を下げた。

 

(……センチになってる場合じゃない)


 掛け値なしの命がけが、もうすぐ始まるのだから。


「じゃあ、さっそくメソッドをさらおう。ウォーミングアップとして、最大円陣・三時間から始める」


 いつの間にかキョウコさんの後ろにいたスイの言葉に、マドカはしっかりとうなずいた。

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