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6 最終対決へ⑨

 そして帰宅。

 現在時刻が転移した月曜日の午後5時、という不思議に、マドカは一瞬、茫然とする。

 見慣れた我が家の見慣れた自室が、涙ぐみたくなるほど懐かしい。

 机の前に座り、彼はしばらく放心していたが、左肩から腕が異様に重だるいのに気付き、我に返る。


 手首にゆるく巻き付いている、ミサンガ風というかチロリアンテープ風というか、布製の、あえて言うのならブレスレット。



「君は今、ヒトの器から抜け出しそうなほど強い能力(ちから)を持っている」


 キョウコさんの言葉だ。


「持っているが、その能力は奔放なものだ。そもそも浄化の力はヒトの器には過ぎた能力、暴走すれば君はヒトであることを忘れ、ただただ【dark】を浄化する性だけが残る、ある種の怪物に成り果て……最終的に己れの寿命を食らいつくして死んでしまう。過去に何人もの【eraser】がそれによって早死にした。このブレスレットは、己れがヒトであることを忘れない歯止めになるよう開発されたものだ。【eraser】以外には見えない、特殊な加工も施されている」


「【home】にいたらわからないが、現実リアルで暮らすとそいつの存在感が嫌というほどわかるだろうよ。……ご愁傷様」


 何故かスイは気の毒そうに眉を寄せ、やや目をそらすように紙巻に火を点け、深く煙を吸った。



(あー、なるほど。確かに……すごい存在感だ)


 物質としての重さなどほとんどない、細い布製のブレスレット。

 だが重い。

 なんだか、腕が肩から抜けそうだ。

 装着する前にキョウコさんが、君の利き手は右だな? とわざわざ確認した意味がわかる。

 利き手がこんなに重いと、日常生活に支障が出そうだ。


 深い緑の地に淡い緑のつる草様の刺繍が入っている。

 このブレスレットの色や模様は各【eraser】によって変わるのだそう。

 そう言えばスイの手首には、右側が赤の地にフレア模様のもの、左側が濃い青地に波の模様という、ふたつのブレスレットがあった。


「こいつはすぐ自分の器を捨てようとするからな。歯止めは通常の二倍、必要なんだ」


 ぼやくように言うキョウコさんへ、スイも渋い顔をした。


「お蔭で現実(リアル)での活動がメチャクチャきつかった。若い頃はまだしも、最近は特にきつかったよ」


 それでなくてもいろいろ限界きてるジジイなのによ、と、煙を吐きながら彼はブツブツぼやいていた。



 やがて母が帰宅し、父も戻ってきた。

 眼鏡をかけた状態で二人の前に出、(キョウコさんからアリバイ用?に渡された)『眼科健診の結果』のプリントを見せる。


「俺、ちょっと特殊な遠視らしい。最近体調を崩したのも、その辺が関わってる可能性あるんだって」


 適当なことを言い、学校から勧められて眼科に通うことになった、そこの医者からこの眼鏡をかけ、しばらく様子を見るようにと渡された等、説明する。


「眼鏡の代金は、これが身体に合うとわかった時点で実費を払ってくれって言われた。あ、明日からしばらくそこ通うから。健康保険証と医者代、お願い」


 顔色ひとつ変えずにスラスラ嘘を吐く自分が、我ながら怖ろしい気がされたが。


『実は俺は【eraser】・エンで、近いうちに元担任の【eraser】・スイと一緒に、【Darkness】の浄化・殲滅に行くことになったから』


 などと、厨二すぎる本当のことを言う訳にはいかない。

 いくら二人が漫画を愛するエンタメ好きでも、それは現実と関りがないから楽しめているのだ。

 ……マドカだってそうだったのだから。



 久しぶりの家飯は、カレーだった。

 特別美味い訳でもないが、馴染みの味に、何だが胸が詰まる。

 キョウコさんが用意してくれる食事の方が、確かに味も盛り付けもあか抜けているというか洒落ていたが、母のカレーには別の美味さがあるとしみじみ彼は思った。


「かあさん」


 食事に手を止め、マドカは母を見る。


「明日の弁当に、小さい時によく作ってくれた甘い玉子焼き、入れてくれない?」


 母は驚いたように目を見張った。


「あんた、弁当に甘い玉子焼きはやめてくれって、中学に入学した時くらいから言ってたじゃない」


「うん、そうだけど」


 マドカは目を伏せる。


「なんか、急に食べたくなったんだよね」


(……ひょっとすると。もう食べる機会、ないかもしれないしなあ)

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