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6 最終対決へ⑦

 翌日。

 マドカはいつも通り、学校へ向かう。

 昨日は臨時で休んでしまったが、さすがに今日まで休む訳にもいかない。


「はあ……」


 ため息まじりに彼は、かけなれない眼鏡のつるを持ち上げた。

 軽さを重視して縁なしにしてもらったが、『顔にものがある』という異物感がすごい。

 そして、文字通り耳が痛い。

 耳というか、眼鏡のつるが乗っている耳の上が痛い。

 こんなのかけて平然としている、常に眼鏡をかけている世間の人をちょっと尊敬する。


(しっかし、眼鏡の世話になるとは思わなかったなあ……)


 ついでに肩から左腕にかけ、重だるい。

 左手首に、深緑の地に淡い緑でつる草模様を刺繍した、細い、チロリアンテープ風のものがゆるく一周、巻き付いている。

 肩や腕が重だるいのはこれのせいだともわかっているが、外す訳にはいかない。

 どちらも【eraser】・エンが、現実(リアル)で恙なく暮らすためのアイテムだとキョウコさんから聞かされている。



 笑い合って話がなし崩しになった頃、キョウコさんがお茶(と白湯)を持ってきてくれた。

 お茶を飲みつつ、なし崩しになった話を再びそれとなく始める。


 スイとしてはやはり、マドカがアチラへ行くことを了承したくなさそうだったが、頭から『お前は来るな』とも言い切れず、困っているのがほの見えた。


「それはやっぱり、俺が頼りないからですか?」


「あー、まあそれもある。だが一番は、アチラが危険で、君の命の保証が出来ないからだよ。俺は死んでも悔いがないくらい生きたけど、君はまだ若い。万が一のことがあったら……」


「なに言ってんすか。それなら先生だって、まだ十分若いじゃないですか!」


 マドカがむきになって言うと、ハハハ、とスイは、軽く笑う。

 

「見かけはな。でも君が思うより、俺はよほど年寄りだよ。君と君のご両親の、どちらが世代的に近いかと言ったら確実に君のご両親に近い。少なくとも、生まれた年代を考えたらそう言える」


「まあそうなるな」


 キョウコさんが口をはさんだ。


「スイは、故郷に帰らないと決めた後、現実(リアル)の時間で十年間、【home】で時間を調整して過ごした。具体的にいえば、現実と【home】の時間差を10:1ほどに調節したんだ。十年タイムラグがあれば、現実で偶然知り合いに出会っても切り抜けられるからな。もっとタイムラグがあった方がいいんだが、それ以上【home】と現実との間で、現実側を早くする時間差をつけるとさすがに私の仕事に支障が出る。調整中の一年間で彼は体調を整えながら【eraser】としての能力を磨き、【home】からでも可能な簡単な浄化などをして暮らした。彼の体感として顕現の二年後になる、体感年齢二十歳から本格的に潜入しての活動を開始したんだ」


 スイは続けて言う。


「【home】と現実の時間差は、都合でよく変えたからな。でも現実の時間の方を早めたのは最初だけで、後は現実の方をゆっくりにすることが多かった。だから体感的に俺はもう、そろそろジジイになってもおかしくないくらい生きた勘定になる。もはや、生まれた年代の年齢をはるかに超えてる理屈になるからな」


「ウソ……」


 茫然としながらマドカが呟くと、スイは久しぶりに、例の魔王めいた顔でニヤッとした。


「本当だ。だから君はもっと先生を敬い、言うことを聞きなさい」



 それでもしつこく食い下がるマドカに、スイもようやく諦めたらしい。

 ただ、今のマドカのレベルのままでは、あちらへ行った途端に死ぬ可能性があると真顔で彼は言い、マドカを瞬間的にたじろがせた。


「とりあえず。君がさっき言っていた通り、君に【eraser】としての訓練をしてみよう。無闇なしごきはしないが、少なくともこのくらいは出来ないとアチラで自分の命は守れないだろう、という訓練はする。必然的に厳しいものになるから覚悟してくれ。……管理人」


「わかった。現実リアルと【home】の時間差を、最大まで伸ばそう。訓練には私も立ち会う。では、今から【home】時間で24時間後に庭で。二人ともそれまでに、体調を整えておくように」


 現実の1分が、【home】での1時間。

 つまり24時間と言っても、現実時間ではほんの24分。

 現実の世界では、まだ余裕で転移してきた日の午前中、だという頭がおかしくなるような場所で、マドカは、想像以上に厳しい訓練を受けることになった。

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― 新着の感想 ―
[一言] これで受験勉強もバッチリ( ˘ω˘ )
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