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1 中心は、0(ゼロ)⑧

 安住会長が一番奥の席に座ると、東野と佐倉がサササと動き、お菓子の袋を開けたり飲み物を紙コップに注いだりし、瞬くうちに茶話会風のテーブルが出来上がった。

 どうしていいのかわからず部屋の隅でぼんやり立っていたマドカへ、先輩たちから口々に、遠慮せずに座って食べるよう促され、炭酸飲料の入った紙コップが渡された。


「今日の九条君はお客さんなんだから、ゆっくり活動の様子を見ててね」


 安住会長は言う。

 マドカはコチコチに固くなって椅子に座り、半笑いで会釈した後ちびちびと紙コップから炭酸飲料を飲んだ。

 味はよくわからなかったが、のどが渇いているので水分は嬉しい。



 角野はドアの近くに、隅に置かれていた丸椅子を引っ張ってきて、そこにドカッと座った。

 顧問はオブザーバー的に活動を見守るのがここの流儀なのかもしれないし、あるいは角野の方針なのかもしれない。

 持ち込んだペットボトルの緑茶を口に含みつつ、彼は、静かに生徒たちの様子を見ている。

 気にはなるが、角野の存在は当面、無視でよさそうだ。

 マドカはそっと手を伸ばし、ポテトチップスを一枚、もらうことにした。



 食べたり飲んだりしつつ、ミーティングが始まる。

 活動の簡単な報告・今後の方針的なことを世間話のように話しつつ、皆でバリバリとスナック菓子を食むのが、この会のミーティングらしい。

 ちなみに、一番食べているのは東山だった。

 後で聞いたが、『ミーティング時のお菓子は、買い出しをした人が一番多く食べる権利がある』という不文律があるそうで、お菓子大好きな東山が毎回、率先して買い出しをしているそうだ。


「理科部の方、変わりなく活動が続いていそうだね。数学部の方は私一人だからできることは限られてるけど、掲示用のクイズは一学期いっぱい分、作成済み。そろそろ中間テストの期間に入るから、今のところ活動はこんな感じが精一杯だよね? それじゃあ、ちょっと早いけど文化祭のことも考えていこっか」


 会長の言葉に、東山が手をあげる。


「文化祭は実験パフォーマンス、やりたいです」


「ああ、去年も好評だったし、いいかも」


 会長がうなずく。


「去年は煙で空気の弾が見えるようにした『空気砲』だったよね? 今年は?」


 佐倉が問うと東山は


「『割れないシャボン玉』とか、どう? 『空気砲』みたいにお客さんにも遊んでもらえるし」


 と、どや顔っぽく胸を張って言う。


「うん、悪くないと思うよ。でもまだ時間あるし、他にも演目の候補を出してね。ただ、使用場所の届け出は六月から夏休み前までだから、それまでには詰めておきたいかなあ」


 会長の言葉に、二年生ふたりはうなずく。


「九条君」


 不意に安住会長から声をかけられ、マドカは椅子の上で飛び上がる。


「ああ、ごめんなさい。急に声をかけられてびっくりしたよね? ちょっと……部外者だからこその意見が聞きたいんだけど、いいかな?」


「え? ああはい、何でしょうか?」


 紙コップをテーブルに置き、マドカはなんとなく背筋を伸ばした。


「文化祭に研究会として参加する場合、何をやったらいいと思う?」


「ええ? は? あ、いえその、ボクよくわからないので何も浮かんできません……」


 締まりのない答えだなと我ながら思うが、本当に何も浮かんでこないので、マドカとしてはそう答えるしかない。


「じゃあさ、九条君が『文化祭』って聞いて思い浮かぶことって、何?」


 佐倉にも問われ、マドカは目をパチパチさせながら一生懸命考える。


「ええと。ボク高校の文化祭って、実際にはほとんど見たことないんですけど。でも、漫画とかアニメとかのイメージだと、舞台で演劇やったり楽器の演奏をしたり、色々な模擬店が出たり教室がお化け屋敷になったり……何て言うか、縁日っぽい? みたいな、楽しいイメージあります、けど……」


「それだ!」


 東山が口の中のポテトチップスの欠片を飛ばしそうな勢いで叫び、立ち上がる。


「縁日、模擬店、いいじゃない。カルメ焼きの実演販売とか、面白いよ絶対」


「カルメ焼き~? あれは難しいでしょーが」


 佐倉が眉を寄せたが、東山は妙に自信ありげだ。


「難しいっちゃ難しいカモだけどさ、きちっと温度管理をすればいいんだよ、アレは。粉もん系のなんちゃらかんちゃらを作るより、ずっと簡単だって。俺、一応前にやってみたことあるしね、カルメ焼き。食っても結構旨いし」


「げええ、化学実験室の器具で作ったカルメ焼き、あんた、マジで食べたの? キモッ」


「キモッ、は失礼だな! 使用後は毎回、ちゃんと洗って管理してるんだから全く問題ない。その辺の調理器具よりきれいな自信あるぞ!」


「はいはい」


 笑みを含んだ声で安住会長は言い、パンパンとふたつほど、手を叩いた。


「模擬店、っていうのは斬新かもしれないね。ウチは人数が限られてるから、やるとしたら実験パフォーマンスか模擬店か、どっちかになるけど。まあ……まだ時間もあるし、次回のミーティングまでこの件は考えてみようか」

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[一言] カルメ焼き懐かしい( ˘ω˘ )
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