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第八話 子猫と波乱?

 最初から手分けして探そうと部長さんが言ってくれて助かった……ようやく食事にありつける。


 適当なスーパーでパンと某猫と楽しいおやつを買う。猫にはやはりこれに限る。


 パンで腹を満たしたら、依頼者の家の近所の住宅街に入る。

 昼過ぎなので、日向ぼっこをしている猫の1匹や2匹、すぐに見つかるだろうと踏んだのだ。


「にゃあ」


 鳴き声。

 すぐに某猫と楽しいおやつの袋を開き、匂いでおびきだす。


「にゃう」


 待つこと十数秒、猫が姿を見せる。白黒のブチだ。

 目を合わせるのは威嚇の意味合いと聞いたことがあったので、逸らしておく。


「なぁ〜う」


 近づいてくる。その距離5m程。油断すれば逃げられるので、気は抜けない。

 じりじりと、こちらからも距離をつめる。


「うにゃぁ」


 猫との距離は数十センチ。某おやつをゆっくりと近づける。


「にゃあ」


 猫がおやつを食べ始めた。

 警戒は解けたと見ていい。


 たとえ住宅街に出没する野良猫でも、この世界に生きている以上、ほんの僅かであっても魔力を持っている。

 夜露は魔波を合わせ、意思疎通を図る。


 ハロー、聞こえてる?


『ナンだニンゲン、オレのコトバがワカるノか?』


 食べる手を止め、興味深そうにこちらを見る猫。


 今度こそファーストコンタクトは成功だな。とりあえずまずは名前でも聞いておこうか……。


『? オレタチはコタイをシキベツするナマエナンてのはモちアワセてなイゼ。ナくてモコマらないカラな』


 名無し……だと呼び方に困るのから、とりあえずブチと呼ばせてもらうか。


『ベツになンダッていいゼ』


 そりゃよかった。で、本題だが、ブチはこの猫を知っているか? 赤い首輪の茶トラ。


『コどもカ? ココらジゃミカケねえツラダな……』


 魔波を合わせての意思疎通の場合、ただ言葉を通わせるだけでなく相手の思念も軽くではあるが感じ取れる。

 嘘をついているような感じはない。どうやら本当に知らないようだ。


 すまんな、手間をとらせた。


『イや、コッチこソちカラになれナくテワリぃな』


 ブチと別れる。

 一匹目から情報が得られるとは思っていなかったが、これは長丁場になりそうだ。





 それから、某おやつを買い直して七匹ほどに話を聞いた。

 得られた情報としては、最近のトレンドは煮干しだということや、いい感じの昼寝スペースの話、某おやつの感想……ほとんど関係のない話だった。微妙に興味が湧くが。


 しかし、1つ有力な手がかりが得られた。


 最近、猫たちの間で町外れの廃墟周辺が熱いらしい。

 ひょっとすると迷子の猫も他の野良猫から話を聞いて、そこに向かっているかも知れない。


 早速情報を共有し――ようとして、連絡手段がないことに気づく。Iine(アイイン)なんてものは交換していなかった。


 まずった……! 今度は猫じゃなく人探しか!?


「おや、夜露くん」


 金髪!!


 ここぞというタイミングで颯爽と登場する金髪。やはりお前がナンバーワンだ。


「ん? 情報が得られたのかい?」


 かくかくしかじか。

 ……車のcmではない。


「なるほど、ビル跡……しかしなぜわかったんだい?」


 え、あ、それはその、企業秘密というか、何と言うか。


 魔波の操作なんてものが世に知られれば、モルモット人生まっしぐらなのは目に見える。

 日本がいくら秩序で守られているように見えても、裏に潜ればどんなものかなんてのは分からない。


 意味が分からないものをヒトは恐れる。恐れるモノをヒトは遠ざける。イコール死。なんてことも起こりうる。


「まあそれは後回しにするとして、部長や灯くんにも連絡して一度集まろう」


 永遠に後回しにしてください。というか、金髪は連絡先持ってるのか……。


 コミュ力()の違いを見せつけられる夜露。

 だがそれはお前が積極的に聞きにいかないからでもあるのだぞ。





 10分程して、全員が集まる。……赤色と部長さんはなぜか泥だらけになっているが。


「一体何があったらそうなるんだい……」

「いや、これは部長がま「少し黙っていようか赤黒クン!」もぐぁ!?」


 口いっぱいになぜか部長さんが持っていた「あんこたっぷりパン」を放り込まれて黙らされる赤色。

 これも陽キャ(かれら)のコミュニケーションの一種なのだろう。世界は奥が深い。


 酷い目に遭ったみたいだけども……あんパンの刑は嫌だからな。聞かないでおこう。


「ふぅん、廃ビルねえ……お手柄じゃないか灰色クン!」


 あっいやでもそこにいると決まった訳でもないんで。


「なあに、こっちは全て無駄足だったんだから、それに比べれば大手柄さ!」


 そう言ってビルの管理業者を調べ、連絡をとる部長さん。

 許可を取り終え、一行はビルへと向かう。


 赤色は無駄足に付き合わされて泥まみれなのか……。


「ところで、どうやって調べたんだい?」


 企業秘密です。




 7階建ての廃ビル。

 取り壊しのための工事計画も進んでいないのか、現場シート的なものの一つも貼られていない。


 窓は割れ、コンクリの表面は汚れ切っている。中はさぞ埃をかぶっていることだろう。念の為マスクを買っておいて正解だった。


 ビルに入ると、猫のものらしき足跡がある。足跡は二階に続いていた。


「上……かな?」


 部長はそう言う。だが、今にも崩れそうなビルをのぼろうという気にはならない。


「確かに、一階には足跡以外ありませんね」


 おい金髪、余計なことを言うな。その口縫い合わすぞ。


 必死の抵抗 (してない)も虚しく、2階へ進む。この床落ちないよな……?


「うわ、ヒビ入ってない? この壁」


 2階を歩き回っていると、赤色そう言った。

 壁にヒビ。大分老朽化しているというか、そこまでくるともう今にも崩れてもおかしくないのではないだろうか。


 確かに、ヒビが入っているようにも見える……いや、というか()()()()()()()()()()……?


「っ全員ビルから出ろ!!」


 部長さんが叫ぶが、遅い。


 地響き、そして轟音。


 毛むくじゃらのナニカが1階の方から伸びてくる。


「うおわっ!?」

「!?」

「あ、あはははははっ!!」


 三者三様の反応。


 笑っている余裕があるなら助けろよ部長さん!!


「ダメなやつだコレ! あはは!」


 違った。

 余裕ではなく、ただの諦めだった。


 公共の場であっても、有事の際は魔術の行使も認められたはず……こうなってしまえば止むを得ん!


 身体強化(ブースト)視力強化(ヴィジョン)そして加速(ダッシュ)。世界がスローモーションになる。

 強化系の魔術は幅が広く、魔術そのものを強化するものもある。加速(ダッシュ)がそれのいい例である。


「うぉ!?」


 まずは近いし赤色を回収……男の子だから多少揺さぶっても平気だよね! 我慢しやがれ。


 邪魔なマスクは破り捨て、周りを見渡す。

 金髪の足元が今にも崩れそうだが、部長の上からは瓦礫が降ってきている。許せ金髪、お前は後だ。


「きゃあ!」


 男女平等。女の子だけど多少揺さぶられても我慢してね!


 抱えた2人にかかるGもお構いなしに、瓦礫を避けながら、弾きながら駆け回る夜露。そうして崩れかけの足場から金髪を回収。


「ちょま、まさかお前っ!!」


 灯が何か言っているが、気にせずに窓から飛び降りる。

 部長さんと金髪は既に目を回している。


 三半規管強いな赤色……。



 飛び降りて、また走る。ビルが崩れる。


 崩れた跡には、ビルの代わりに巨大な茶トラの猫がいた。

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