第七話 部活と依頼?
授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。ただ、今日は授業ではなく、諸々の説明のために授業時間が使われた上に、午前だけであったが。
お腹が空いたな、なんてことを思いながら帰りの支度をしていると、赤色と金髪が近づいてくる。
…………あ、今朝のアレか。すっかり忘れてた。
「夜露、今いいか?」
「夜露くん、話がある。少しついてきてくるかい?」
おい待て引っ張るな。まだイエスともノーとも言っていない……おいこら待てっての。
夜露の返事を待たずにドナドナしていく2人。クラスメイトからの視線とかは気にならないのだろうか。夜露は気になる。変な目で見られていた。
屋上の手前あたりの踊り場。ラノベとかではよく見る場所だけど、ここはかなり汚れているし埃っぽいなーなんて事を考えていると、金髪がいきなり頭を下げてくる。
え、何、怖っ。
「夜露くん、申し訳ないが、君にはボランティア部に入ってもらいたい」
いやどんだけボランティアしたいんだよ。そんなの自主的なものなんだから、勝手に行動しちまえばいいだろ。
「俺からも頼む。事情は話せねぇけど、俺たちには必要なことなんだ」
おっといきなり頭を下げるやつが2人登場~。事情を話してくれないと分かるものも分からないの知ってたか? マヌケ。……いやマジに困る。あの部活に何があるんだよ。世界の真理か何かか?
「テストに参加したのは事故だったのかも知れないが、君がいなければ私たちは不合格だったかも知れないんだ。2人がかりではアレを仕留めることは難しかった」
いや、むしろ僕がいなかった方が簡単に仕留められていただろ。アレ、トリモドキに強化されてたし。
「夜露は話を合わせてくれるだけでいいんだ! 兼部もできるって話だし!」
違う、そこじゃない。部活に入る=活動に参加する=帰る時間が遅くなる=魔器いじりの時間が減る=デメリットの等式なんだよ! 陽キャには分からないでしょうけどね!!
しかし、口に出来ていない以上は通じるものも通じない。知ってたか? 夜露。
「答えをくれ、夜露くん。私たちの勝手な事情であることは分かっている。それでも、それでもお願いするっ……!」
「頼む! 夜露!!」
嫌だ……あんな滅茶苦茶なテストを入部の条件に出す部活なんて嫌だ……!
夜露は思う。あの部活は絶対に碌でもないと。
「アッハイ」
しかし、それを口に出せる度胸はなかった。
NOと言えない日本人、夜露。
言い訳のしようがない肯定であった。
「まずは自己紹介かな? 私は部長の泉羽 伊世。2年3組だから、今日はいけない〜とかって連絡はそこまで来てくれ。それと私、魔器研なんだが、3人はどれなんだい?」
魔特の校舎はデカい。
生徒数が多いのもあるが、研究施設が併設されていたりもするので、敷地面積もバカみたいに広い。
「……まあ、いいか。部活の説明に移ろう。ここボランティア部は基本的に、生徒や教師……今はまだ手が回っていないが……地域の人々の依頼や悩みごとを解決する部活だ」
授業を受ける教室が集まっているのが1号館。部室や職員室、研究室があるのが2号館。その他体育館などの施設があるのが3号館。
それぞれは4階建ての校舎になっている。
「依頼は各階の廊下の依頼BOXに依頼カードを入れてもらっている。入れられた依頼については、依頼者を部室に呼んで話を聞いたり、私たちが独自に動いて解決していく」
ボランティア部の部室は2号館の1階、職員室と会議室の間にある。
昔は違ったそうだが、依頼関係で教師陣と会議することもあるので、このような配置に変わったらしい。
「大体はそんな感じだ。細かいことは動きながら説明していくが、ここまでで何か質問はあるかな?」
360度から迫り来る陽のオーラに蒸発しかけてきたころ、部活の説明が終わる。
やっと帰れる……腹が減った。
「よし、ならば早速依頼を片付けていこう。依頼BOXオープン!」
……?
「なるほどな、今日の依頼はこれだ! “迷子の猫探し”!」
…え、今日から活動開始なの? 善は急げなの? 他の先輩は? 別の依頼の処理に行ってるの?
「さあチュートリアルクエストに出発だ! 猫を探すぞ!」
え、ていうか資料これだけ??
手がかりは写真一枚と依頼者の家にマークがされた地図のみ。
渡されたそれには、赤い首輪をした茶トラの猫又の子猫が写っている。2週間くらい前から帰っていないらしい。
猫又は、魔力の影響を強めに受けただけのただの猫。別に驚くほどのものではない。成長し過ぎると殺処分というのもあり得るが……まぁ、魔生物に近いものなので近代ではそう育つことはない。
ぞろぞろと部室から出ていく部員達。そして、流れに逆らえず一緒に出ていく夜露。
またしてもNOとは言えない日本人、夜露であった。