第六話 自己の紹介?
髪色には、その人の魔力が影響する。
大体の人は得意な魔術の系統が魔力にも現れる。そのため髪色から得意な魔術の予想ができるのだ。
実際あの赤色は昨日炎系の魔術を使っていたし、金髪は雷系を使っていた。
灰色とか銀色は強化系が得意な傾向……僕もそうだし。
「あー、じゃあ、一限は自己紹介をしてもらう。俺は担任の千川 聖良で、担当は国語と魔術研究科だ。んじゃ、とりあえず1番から」
なのでおそらく、隣の銀髪も強化系……か、あるいは金属に関するものが得意なのだろう。
「えと、藍河 翔介っていいます。小中の大体の出席番号が1番で、大抵の授業で一番手やらされます。水系が得意で、魔生物研究科です。これからよろしくです」
銀髪だからという適当な理由なので違うかもしれないが、髪色とあまりに違う系統の魔術が得意になることは少ないので、遠くもないとはずだ。
まぁあくまで「一般的には」という話なので、赤い髪なのに水系統というのもなくはない。
「青樹 清樹です。小中学校の頃はずっと出席番号が1番だったので、藍河には対抗意識があります。付与系が得意で、魔術研究科です。藍河以外はこれから1年よろしくお願いします」
ちなみに1クラスは40人でこの学年は5クラスある。
2組の座席は黒板を前にして左から6人、7人×4、6人の列になっていて、夜露は右から2列目の6番目、銀髪は右端の1番後ろの席だ。
両端の列は1番後ろが1席分スペースが空いているので、夜露と銀髪は隣合わせになっている。
これもまた運命か……。
「飯塚 涼華。風系が得意で、昔から「あ」で始まる苗字の人のせいで1番を逃してきたから、藍河と青樹は後で覚悟しておけよ。あ、あと私戦闘科」
というか何だこいつら。出席番号1番にこだわり過ぎだろ。
赤色と金髪はそれぞれ2列目、4列目の1番前に居る。
まぁ、関わることはあまり無いだろう。
「伊井沼 陽平って言いましてー、外人の人にyo,hey!って呼ばれる時があります。土系が得意で、えー、魔器研で、まぁ、とりあえずこれからよろしく」
おい伊井沼、そこは空気を読んで出席番号でキレ散らかせよ。飯塚は「あ」で始まるやつシメるって言ったんだから。ほら、藍河と青樹がちょっとホッとした顔してんじゃん。飯塚がすげー顔で睨んでるぞ。
「和泉 祥子です。水系が得意で、魔生物研。だから藍河に負けるつもりはありません。飯塚さんと似たような感じなので、恨みはないけどとりあえず藍河はシメます。よろしく」
まだいた。
夜露はもはや順番どうこうというよりも、このクラスのあ行の人の多さに驚いていた。……あ行の人の主席番号1番へのこだわりにもだが。
あ、ていうか次銀髪の番だ。
「五十ヶ崎 ガーネットです。強化と付与系が得意で、魔導機器研究科です。一年間、よろしくお願いいたします」
改めてパッと見た感じの感想は、えらい美人さん。声とか立ち居振る舞いの感想は、礼儀正しそうな人。
トリモドキとは大違いだ。
というか、五十にヶ崎か……僕は四十九にヶ崎だから、強化系に魔器研というのもあるしやはり何か縁を感じるな……実在するのだろうか、運命。虫取り網でいけるかな……。
「俺は篝火 灯。戦闘科で、夢は最強の炎系魔術師だ! 今日からよろしく!」
暑苦しい奴だな! 嫌いじゃないけど、近くにいられるのは嫌なタイプだな……同じクラスってだけならまぁ……でも、うーん……。
赤色の番が終わって、夜露の前4人の自己紹介が終わり、ついに夜露の番。
しかし1度ここで、夜露の減点ポイントをおさらいしていこう。
まず徹夜明けの寝ぼけ頭で減点1。ちゃんと睡眠をとってくるべきだっただろう。
次にコミュ力で減点1。ここは比較的加点されやすいポイントだったが、小中の行動がまずかったのだろう。
さらに身なりで減点3。目の下のクマに、伸びっぱなしの髪。制服にはまだ2日目だというのにもうシワがついている。
最後に前日の欠席と1つ上のものを合わせ減点2。サボり疑惑(事実)が浮上してくる。
現時点での合計の減点は7ポイント。この減点分を挽回できるだけの自己紹介が、果たして夜露にできるか。
「あ、と、四十九ヶ崎 夜露です。えー……強化系が得意で……魔器研で……ぁー、よろしく、おねがいします」
自己紹介で減点1。これは酷い。
しかし、まだ希望はあった。
「へえ、私の五十ヶ崎から1を引けば四十九ヶ崎ですね」
銀髪、渾身のフォロー。
これをふいにすれば、自分だけでなく銀髪にも恥をかかせることになる。返せるか。
「ぇっ、あっそっすね。へへ」
ダメだった。減点2。合計はマイナス10ポイント。クラスメイトからの第一印象は最悪のものとなっているだろう。なんか睨まれてるし。
夜露は座ってすぐに机に伏せ、しばらくして金髪の番。
「那津麻 ライモン。一通りの魔術が扱えるけど、その中でも雷系が得意だね。魔術研所属。ただ魔法は苦手だから、これから頑張っていこうと思ってるよ。これからよろしく」
爽やか、それに尽きた。夜露とは大違いだ。
魔法とは、声に魔力を含ませて特定の文言を発することで発動させる魔術の一種だが、脳のリソースをほぼ割かずに魔術を行使できるので、動き回りながらでも使えるというメリットがある。
少しというか大分違うが、以前のマティアの咆哮の様なやつだ。
デメリットは、声に魔力を含ませるという行為を正確にイメージする必要があるという点で、ここで躓く魔術師は多い。
また、文言を発するまで魔術が発動しないので、即効性がイマイチであるというのもある。
魔法……魔法なぁ……強化系は「考える前に動け」が基本だからなぁ……魔法は確かに精密な力加減には向いてるかもだけど、強化系の長所の即効性を殺すからどうにも使いにくいし……。
夜露が銀髪のフォローをふいにした現実から逃げるために魔法について色々考えている間に、気づけば全員の自己紹介は終了しており、一限は終わっていた。
藍河と青樹は、飯塚と和泉に引きずられて、どこかへと連れていかれていた。南無。