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第五話 登校と級友?

 固有名持ちと聞くと、魔生物として完成された最強の存在のように聞こえるが、実際は少し異なる。

 そもそも、単なる強さや魔力の保有量のみで、魔生物のクラスが決まるわけではない。


 アドは、個体として成立した時点から。この頃は普通の動物とほとんど違いがない。


 イドは、身体に特異な性質(前のマティアであれば発達した爪)が現れた時点から。この頃から、普通の動物との差が現れ始める。


 ウドは、その種ではなく、その個体特有の魔術が扱えるようになった時点から。この頃から一気に凶暴性が増してくる。


 エドは、身体を構成する組織の25%以上が魔力になった時点から。ウドを飛ばしてエドになるケースもなくはないらしい。


 オドは、生命活動の一部を魔力や魔術で行うようになった時点から。この頃には見た目も凶暴性もアドの頃と比較にならず、既に動物というよりも、それこそ化け物と呼ばれるような見た目になるらしい。


 そして固有名持ちは、身体のほとんどが実体化した魔力に置き換わった個体を指す。過去の記録が少ないので詳しくは分からないが、ひとまとまりの魔力は基本的に単一の性質しか示せないので、一芸特化のものが多いと言われている。





 つまり、トリモドキのようにあからさまに固有名持ちの魔生物であっても、対策を講じてしまえば簡単に倒せることもあるのだ。

 大昔の人達だって、固有名持ちのマティア、グラン・マティアスの討伐に成功しているのだから。


「イヤ、ソノリクツハオカシイダロ」


 喋り方がいつの間にか元に戻っているトリモドキ。ちゃんとした喋り方は疲れるらしいが、疲れるだけならもう少し頑張れよと言いたい。


 それはそうと、対策したから倒せる。というのは確かにおかしかったが、細かいことを気にしていられるほど時間も無かった。


「タオサレタイジョウハオトナシクスルトイッタノニ……ナンデテツヤデカセノカイゾウスルンダヨ」


 そう、夜露は徹夜でトリモドキの枷の改造を行なっていたのだ。次の日も学校であることもお構いなしに。


「アサゴハンクライタベテイケヨ。カラダニワルイゼ」


 その改造が、性能の向上であればよかったのだが、せいぜい機能が1つ2つ増えただけで、夜露はほとんどの時間をビジュアルの改善に費やしたのだ。金属剥き出しな外見が微妙にダサいというだけの理由で。


「ハァ、カギハオレガシメルカラトリアエズイソゲヨ。サスガニフツカレンゾクデダッシュ、ソレモコンドハネオキデ、ナンテノハキツイダロ」


 ごもっともであった。


 夜露は鍵をトリモドキに任せて家を出る。朝食はとらない。

 ちなみに、トリモドキは枷の機能のせいで命令にあまり抵抗できなくなっている上に、家から出られなくなっていた。


「……マア、アイツガシヌマデクライナラ、ツキアッテヤルノモヤムナシカ。……ソノマエニオワルカモダケド」


 あと長くても90年くらいの付き合いだと、トリモドキは諦めムードに入っていた。


 名前も含めて。





 通学路の途中の、川沿いの桜並木。

 あと1週間もすれば散ってしまうだろうが、今はゆっくり見ている暇はない。急がねば。


 桜並木を通り過ぎれば、昨日の公園がみえてくる。自販機とベンチも。


 念入りに封をしたはずの忌まわしい昨日の記憶が蘇る。溢れ出そうになる涙をぐっと堪え、過去に別れを告げる。僕は成長したのだ。


 公園を過ぎ、大通りを越えると、学校が見えてくる。

 昨日たどり着けなかった学校、実は受験以来だったりする。


「……ん? 四十九ヶ崎じゃん!」

「っ!? ……ああ、良かった」


 朝の予鈴が鳴るまでまだ少し余裕があるなと思い、歩くペースを落とすと、声が聞こえてくる。


 ……おい金髪、いま吐瀉物の匂い警戒してただろ。流石に洗濯ぐらいしてあるわ。


「ぁっ、ぉはょす」


 トリモドキと一晩中話していた夜露の喉は、枯れ果てていた。

 それ以前の問題な気もするし、挨拶も意味不明な言語と化していたが、第一声が再び大失敗というのはよく分かる。


 小学校からやり直したい……。


「? おはよう」


 しかしどうやら赤色には聞こえていなかったようだ。ヨシ!


 だが立ち止まったのを不審に思ったのか、怪訝な顔をしている。


「なあ、夜露って呼んでもいいか? 昨日の身体強化(ブースト)凄かったけど、何か武術とかやってんのか? 夜露って何組なんだ? 俺2組なんだけど。あ、あとライモンも2組だぜ。なあ、なあ!」


 待て待て多い多い早い早い。最初のなあから最後のなあまで10秒も無かったぞ今の。怖い。威圧感で2割も話が入ってこなかったぞ。これだから陽キャは……。


「落ち着きたまえ、灯くん。一度に話されて困っているだろう。一つずつ聞かないと」


 金髪っ! 細やかな気配りができるやつは好かれるって言うのがよく分かる……!


「あぁ、そうだな悪ぃ。夜露って何組なんだ?」


 夜露はここまでずっと、猫背でじっとしている。陰キャ特有の姿勢の悪い直立不動。


 組の話か。今朝ポストにクラス分けのプリントが届けられてたから良かったが、欠席時のプリント発送サービスがなければ死んでいた。


「ニッ↑……2組です……」


 うっ……裏返ったァッッ!!!


 心の底の海王も叫ぶほどの衝撃。


 発声練習は大事。

 おそらく陰キャの6割くらいは話す前に「あっ」とか「えっ」とかを言わないとまともに声が出ない。つまりそのワンクッションを忘れてしまった夜露が悪い。


「あれ、同じクラスだったのか? 昨日見かけなかった気がするけど」


 しかし、裏返った声を赤色は気にしなかったようだ。なるほど、ただの陽キャではなさそうだ。


 え、同じクラス? 嘘ぉん。サボったことバレる系? そこどうにかならない?


「ひょっとして、昨日空席だった12番の人じゃないかい?」


 バレる系。そこはどうにもならない。


 や、やべーよ、どう説明するよ……。


「? じゃあ何でボランティア部のテスト会場にいたんだよ」

「昨日、夜露くんは吐瀉物の匂いがしたし、体調不良で休んでいた所でテストに巻き込まれた……ということか?」


 言い訳なんてなかった。全て事実だった。

 しかし様子がおかしい。なぜか異常に慌てている。


「じ、じゃあ! 昨日のテスト、無効になるかも知れねーのか!?」


 焦る赤色。


 まぁやり直しかもだけど……何をそこまで必死になってるのさ?


「っ! それは困る! 私達には入らなからばいけない理由があると言うのに!」


 金髪も焦る。

 何か大きな理由なのだろうか。


 理由なんてのは知らないけども……とりあえず伝えたいことは伝えておこう。


「あっえっあの、あの、じ、時間っ」


 「あっ」と「えっ」を挟むことには成功したが、それを連続で出してしまったのはいただけない。これではただのテンパってる人だ。実際テンパっているのだが。


 よし、伝わったな!(現実から目を逸らしつつ)


「え、うわ、ほんとだ! 遅刻寸前じゃんか!」

「っ……話の続きは後でさせてもらうから、準備しておいてくれよ!」


 そう言って走り出す2人。

 身体強化(ブースト)を発動させたハイスピード。学校の敷地内での魔術の使用は、常識の範囲内で許可されているのだ。公道で使うと滅茶苦茶怒られるが。


 出遅れ気味ではある……まぁこの程度ならいけるけど。僕も適当なスタンディングスタートの体勢でよーい、どん。


「うっそだろ!?」

「これは驚いたな。ここまでとは」


 このくらいで驚いてもらっては困るなぁ! これでも合わせてんだぜ?


 昨日の身体強化(ブースト)を見ていたため、走るスピードには見当をつけていた2人だったが、まさか出遅れ気味でも並ばれるとは思っていなかったようだ。


 そうして走って、玄関で上履きに履き替え、教室へもまた駆ける。一年の教室は4階なので、階段のショートカットが肝心になる。

 階段などのコツは身体の中の魔力の巡らせ方だ。


「ギリギリセーフ!!」


 何とか教室にたどり着く。3人以外の生徒は、既に全員集まっていた。めっちゃこっち見てる。


「魔術の行使は常識の範囲内に収めるようにと昨日説明されたでしょうに……」

「「げえっ委員長!」」


 こめかみを抑える銀髪ロングの女子生徒。2人が委員長と呼んでいるので、多分そうなのだろう。どこか苦労人感が滲み出ている。


 腰くらいまで伸びた髪は、毛先が内側に丸くなっている。

 眉間をひくつかせた銀髪に、2人は魔術の使い方について怒られている。しかし夜露は何気にスルーされた。


 昨日の先輩は直視できなかったが、この銀髪には自分の灰色の髪と似通ったモノを感じた。髪に。


 妙な感覚だな……これが……運命……? え、バラして解析して再現すればノーベル賞モノでは……?



 席に着くことも忘れ、どこか変な運命の捉え方をしている夜露であった。


 この後先生が来て、席に着けと怒られた。

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